植物状態ってなに?-延髄の役割と機能-
こんにちは、まちょです!
今回は延髄について解説していきたいなと思います。
延髄と言われてパッとイメージつく方はあまりいないと思います。もはや「延髄って何?」と思う方もいるかもしれません。ですが我々が生きていくうえで大変重要な中枢機能ですので、知識として軽く知っておくのも悪くはないのでしょうか。
植物状態の解説については第4項まで飛ばして頂いても構いません!
1. 中枢神経系
まず、延髄の説明に入る前に中枢神経系の概要から復習したいと思います。
神経系は大きく、中枢神経系と末梢神経系に分類され、そのうち中枢神経系はみなさんご存じ脳と脊髄から構成されます。
言うまでもなく、ヒトがここまで繁栄できたのもひとえに中枢神経系の高次的な役割のおかげと言っても過言ではありません。末梢神経系から入力された情報が中枢神経系で統合・処理され記憶や学習・認知・意識・情動などの高次機能を生み出しているのです。
2. 脳幹
脳について深彫りしていきますが、脳は以下のように大別することが出来ます。
上記で述べた意識などの高次機能は主に大脳で処理されていると言われています。
( ↓↓ 過去の記事です。昔のものなので少し恥ずかしいですが笑。)
脳は他に脳幹と小脳と分類されます。特に脳幹は間脳(上記のイラストでいう視床下部の部分)、中脳、橋、延髄からなります。
上記で述べたよう、大脳が高次機能を司るなら、脳幹は生命維持機能を司ります。
間脳:大脳皮質での感覚入力の核を担っている。また、自律神経機能や内分泌機能の制御中枢である。
中脳:視覚反射、聴覚反射、眼球運動などを実行する。
橋:顔面の感覚、平衡覚・聴覚、咀嚼、眼球運動を実行する。
延髄:呼吸・循環・消化などの生命維持機能を営む。
3. 三叉神経
脳神経は左右に12対存在し、それぞれ固有の名称と通し番号がつけられています。
その中でも、第5神経にあたる三叉神経は脳神経のうち最も太いものであり、顔面の知覚情報(例えば痛み情報)を延髄などに伝達します。
「三叉」とは、この神経が3つ子のように3枝に分かれて眼領域、上顎領域、下顎領域へ行く様子を表したものです。
また、三叉神経は伝達する情報によってその後の上行路が違います。
説明は省きますが(興味ある方は第6項へ)、識別性触圧覚と深部知覚の情報は橋にある三叉神経主知覚核or中脳路核を介し、視床VPM(後内側腹側)核から大脳の一次体性感覚野に入力されます。
一方、温痛覚と識別性のない粗大な触圧覚の情報は三叉神経脊髄路核を介し、視床VPM核から一次体性感覚野に入力されます。
【識別性触圧覚と深部知覚】
三叉神経節 ➡ 三叉神経主知覚核(橋)or中脳路核 ➡ 視床VPM核 ➡ 一次体性感覚野
【温痛覚と識別性のない粗大な触圧覚】
三叉神経節 ➡ 三叉神経脊髄路核(延髄) ➡ 視床VPM核(対側) ➡ 一次体性感覚野
4. 延髄
では、ここで本題の延髄に入ります。これまでの内容をまとめると、延髄は生命維持機能を司り、かつ顔面の一部の感覚情報が三叉神経を介して一次体性感覚野に入力するためのリレー地点であるわけです。
延髄背側部には、感覚性の中継核(後索核)、感覚性脳神経核(三叉神経脊髄路核、孤束核)、運動性脳神経核があります。
特に生命維持機能を司るのは運動性脳神経核であり、嚥下、呼吸、体温管理に関わります。何回も繰り返すようですが、大脳が意識を司り、延髄が生命維持機能を司っているため、一般的に言われる「植物状態」というのは、大脳に障害が起きているが延髄は無事であるために起こる現象であることがわかります。これを生きているというのか死んでいるというのかは本当に難しい話であることがなんとなく分かりますね。大脳の障害により3大欲求である食欲すら湧かないのですから…。
ただ、脳死とは違いまだ回復する可能性がとても少ないですがあります。脳死はこの脳幹まで死んでしまっているため人工呼吸器などつけて外部から生命維持を行わなければなりません。
5. 延髄への疼痛情報の入力
さて、ここからは疼痛研究、つまり痛みの研究をしている私が目線での延髄について勉強していきたいなと思います。完全に個人用です(笑)
これまで述べたように、延髄は生命維持機能の他に顔面の一部の感覚情報が入力する場所でもありましたが、その感覚情報のうちの痛み情報にフォーカスを当てます。
例えば、顔にサッカーボールが当たったとしましょう。顔面皮膚で痛み情報が発生し、その情報は三叉神経によって伝達され延髄の三叉神経脊髄路核に投射されます。
三叉神経脊髄路核は大きく3つに分類されます。頭側から、吻側亜核(Sp5o)、中間亜核(Sp5i)、そして尾側亜核(Sp5c)です。そのうち尾側亜核は層構造を成していることから脊髄後角に相当、つまり痛み情報のリレー地点であります。つまり、マウスを用いて顔面の情報が尾側亜核に入力することを確かめるには、尾側亜核のc-fos発現を解析するわけです。(痛み情報の入力は尾側亜核特異的であるわけではない)
また、尾側亜核はさらに3つの層に分類されます。辺縁層と膠様層と大細胞層です。
辺縁層:脊髄後角Ⅰo層に相当。つまり浅層。もちろん投射ニューロンが分布している。NS(特異的侵害受容)ニューロンも分布しており、NSニューロンは内臓からの侵害性入力も収束している。
膠様層:脊髄後角Ⅰi層とⅡ層に相当。つまり浅層。分布しているニューロンは全て介在ニューロンである。NSニューロンの入力もしている。
大細胞層:脊髄後角Ⅲ、Ⅳ層に相当。低閾値機械受容ニューロンが分布している。
また、腹側は以下の2つに分類されている。
延髄背側網様亜核:脊髄後角Ⅴ層に相当。WDRニューロンが分布。同側三叉神経支配領域にやや広い末梢受容野を持ち、触刺激では興奮しないが、圧刺激と侵害刺激に対して段階的応答を示す。
延髄腹側毛様亜核:SRVタイプニューロンが分布。三叉神経領域に広い受容野を持つ侵害受容ニューロンがある。
IB4は、脊髄後角同様にSp5cの非ペプチド性侵害受容性線維のマーカーである。
PKCγも同様にⅡ層が染まる。慢性化するとⅢ、Ⅳ層の方も染まってくるらしい。
PKCγとSP、PKCγとIB4のirが載っている。
アストロサイトももちろん染まる。第2肢、3肢の領域の部分が示されている。
解剖学的なC1からSp5oまでの構造
6. 深部知覚とは
深部知覚とは、関節の屈曲度や筋の収縮度に関する感覚情報を指し、無意識のうちに脳に伝えられる。これによりの脳は身体各部の位置感覚、運動の状態、身体に加わる抵抗感覚・重量感覚などの情報を手に入れる。通常はこれらの知覚は全く意識に上らないが、面白いことに、例えば暗闇などに置かれて自己と空間の認知レベルが低下すると、転倒を避けるために我々は重力に対する体軸のズレや手足の位置、関節の角度を意識できるようになる。
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