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【初心者向け】痒みの研究を勉強するにあたり最初に知っておくべき知識9選

1. 痒みの定義

痒みとは、「引っ掻きたくなるような不快な感覚」と定義され、「痛みより耐え難い苦痛」と表現されます。大げさなと思うかもしれませんが、実際に、副作用である痒みが耐え切れずモルヒネによる疼痛治療を中断してしまう患者もいるほどです。

2. 慢性掻痒の定義

臨床では、6週間以上痒みが続いた場合を慢性掻痒とします。代表的な慢性掻痒疾患にはアトピー性皮膚炎乾癬などが挙げられます。

アトピー性皮膚炎


乾癬

3. Itch scratch cycle

慢性掻痒疾患は皮膚炎を伴う場合が多いです。なぜなら痒みを感じ引っ掻くことにより、皮膚バリアが破壊され炎症を招くからです。そうして皮膚炎症が起こると炎症性サイトカインを始めとした痒み物質が放出され、それが更なる痒みを引き起こします。そしてまた引っ掻いて皮膚バリアが破壊され…と悪循環に陥り、病態が悪化します。この悪循環をitch scratch cycleと呼びます。これがお医者さんから掻くのを我慢してと言われる理由ですが、実際そんなことは不可能なわけです。上記で述べた通り痒みは痛みより不快なのですから。

Itch scratch cycle

4. 痒み情報の伝達経路

末梢⇨脊髄後角⇨脳 (⇨脊髄後角)

末梢で発生した痒み情報は、一次求心性線維を介して脊髄後角に入力します。未だ議論は続いていますが、一般的に掻き動作は脊髄反射と言われているため、入力したかゆみ情報は脊髄前角の運動ニューロンに伝達され、掻き動作を起こします。また、に上行する経路もあり、そこで初めて痒みを知覚するとも言われています。そして痒みには、脳から下行して脊髄後角に情報が伝達されるフィードバック機構もあります。

痒み(痛み)の伝達経路

5. 末梢の代表的なかゆみ因子

ここで全てを挙げるとキリがないのですが、1番有名なのはヒスタミンだと思います。他には、セロトニンサブスタンスP炎症性サイトカインは炎症だけでなく痒み因子としても働きます。また、外因性ではありますがクロロキンが動物実験でよく用いられます。最近では、IL-31ペリオスチンが慢性掻痒の注目プレイヤーです。

6. C線維

先ほど、末梢で発生した痒み情報は一次求心性線維を介し、脊髄後角に入力すると説明しました。ヒスタミンなどの痒み因子は皮膚の自由神経終末にある受容体に作用し活動電位を発生させることで痒み情報が発生します。具体的には一次求心性線維のうちのC線維を介します。さらに古典的な分類では、痒みを伝えるC線維はヒスタミン依存性ヒスタミン非依存性に分けられ、慢性掻痒にはヒスタミン非依存性の経路が重要です。そしてこの経路の重要な痒み因子がクロロキンであることが、外因性ではありますが実験によく用いられる理由になります。

7. GRP-GRPRシステム

現在の痒み情報伝達の神経回路研究では、脊髄後角が最もホットです。なぜかと言うと、脊髄後角において、痒み情報を特異的に伝達するニューロンが大発見(Nature, 2007)されたからです。これまで説明してきた経路など、痒み情報伝達経路は痛み情報も伝達するケースが多く、このオーバーラップが痒み神経回路理解の障壁となっていました。このニューロンとは、ガストリン放出ペプチド受容体(GRPR)ニューロン(脊髄介在ニューロン)で、今日までGRP-GRPRシステムの詳細について様々な研究がなされてきましたが、GRPの放出機構(一次求心性線維からなのか、はたまた介在ニューロンからなのか)については決着がついていない状況です。

8. 下行性抑制系

脳へ上行した痒み情報はフィードバック的に脊髄後角を下行抑制します。一般的には青斑核を経由するノルアドレナリン作動性経路がよく言われていますが、吻側延髄腹内側部を介する経路の存在も近年示唆されています。また、抑制だけでなく促進させる経路も存在しており、これらの経路がGRPRニューロンをどのように制御しているかがホットな研究の一つとなっています。また、少しぼかしましたが、脳へ上行した痒み情報がどのような処理をされるかについてはあまり研究が進んでいないため、今後注目すべきポイントであるかもしれません。

9. 薬理学的研究

蕁麻疹など、一般的な痒みには抗ヒスタミン薬が用いられますが、慢性掻痒疾患には抗ヒスタミン薬は抵抗性を示す場合が多いです。そのため、鎮痒薬の開発は痒み研究の永遠の課題です。例えばレミッチ(ナルフラフィン、KORアゴニスト) が既存薬としてありますが、適応が限られており、代表的な慢性掻痒疾患であるアトピー性皮膚炎には用いられる鎮痒薬がないのが現状です(抗炎症薬、免疫抑制薬がメインになっている)。



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