かゆみ学#11 〜マウスのかゆみ行動の解析法とその歴史〜
科学の進歩が目まぐるしい現代、その裏には"解析技術の進化"が不可避です。
しかし、それら素晴らしい技術にはスポットライトが当たることは滅多になく、まるで下町のネジ工場のようです。
研究業界では、稀にノーベル賞といった形で名誉が与えられますが、数年後十数年後…といったケースが多いです笑
そんな研究技術について、今回、自分の研究分野であるかゆみ研究に関連した技術を紹介していきます!
1. マウスの痒みの指標は「掻き動作」である
マウスはヒト同様にかゆみを感じると引っ掻き行動、いわゆる掻き動作をすると考えられているので、それを指標として解析を行っています。
詳しくことを言うと、掻き動作の回数は基本的には30〜1時間解析します。
もちろん実験にもよりますが、多いもので300〜500回掻いたりします。
痒み研究が盛んになり始めた、1990年ごろはそれらを録画し手でカウントしていました。
とんでもなく脳筋ですよね。1時間くらいひたすらカチカチするのを、最低でも8匹×2群で16時間行うのです。そりゃあ人気も出ない訳ですわ笑笑
ですがこの方法、非常に効率が悪いように見えますが、今でも用いられないわけではありません。確実さという点ではやはり一番の方法ですので。
2. 待望の解析"自動化"
人力で掻き動作を解析することがいかに大変か理解して頂けたかと思います。そして当然、この解析は機械に任せようといった考えに至る訳ですが、、、
そこで開発されたのがマイクロアクトであります。
簡単に言うとマウスの後肢に磁石を埋め込み、掻き動作による磁場の変化を捉えて解析しようといった話です。
これにより飛躍的な解析の効率化が実現された訳ですが、それだけではなく、肉眼では観察出来ない夜間における解析も可能になりました。
マウスは夜行性なので、夜間における解析も大切なのです。
しかし、これでもやはり課題は完全に解消された訳ではありません。
マイクロアクトの欠点その1は、マウスに磁石を埋めなければいけない点です。
このようにマウスに影響を与える可能性がある処置を行うことを、少し難しい言葉で侵襲的であると言いますが、行動試験において侵襲的かどうかは非常に重要なポイントとなってきます。
例えば、この磁石による重さにより掻き動作に影響があるかもしれないし、実験をする都度マウスに磁石を埋める処置を施さなければならず大変です。
二つ目は、解析の精度にあります。
ひとことで言うと、「偽陽性が多い」ということです。
掻き動作以外の動作、例えば歩く事による磁場変化も捉えてしまい本来の数より多くなってしまう訳です。
3. SCLABAシステムによる画像解析
そこで結局たどり着くのが、画像解析なわけです。
Noveltec社が開発したSCLABAシリーズにより、掻き動作の画像処理が初めて可能になりました。
初代SCLABAはこのように装置が非常に大きいものでした。
(上の透明な部分にマウスを入れてビデオで下から撮影する)
まるで80年代の携帯電話を彷彿とさせるようなアナログ感。
仕組みとしては、マウスの掻く位置(主に吻側背部か頭)と後肢の2点をマーキングし、それら2点が近づくとカウントされるといったものです。
これによりマイクロアクトのデメリットであった侵襲性の問題はほぼ解決されました。また、掻いている部分の動画を切り取り、チェックする機能も搭載されているため、偽陽性もこれにてなくすことが出来るようになりました。
今ではSCLABAは3代目に突入しており、マーキングの必要もなく非侵襲的であり、解析精度・デザイン性ともに進化しています。
下から不可視光を当て上のビデオで影を撮影し、その影の動きを解析することで掻き動作だけではなく行動量も解析できる優れものとなりました。
僕の研究室もこれを導入していますが、本当に解析が簡易になりました。一瞬です。
このようにカチカチで始まったかゆみ研究は、今ではほぼ自動になりました。16時間かかっていた解析が一瞬で終わってしまうことを考えると、効率がいかに良くなったかが分かるかと思います。
記事を書きながら昔のかゆみ研究者へのリスペクトと、やはり自分は恵まれた時代に研究をできていることに感謝することを忘れてはいけないなと改めて感じました。
僕の研究を応援して頂ければ幸いです!