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虚構の大冒険


この世界は、虚構だらけだ。

会社終わり、電車に揺られながらいつもの景色を眺める。

高すぎるマンション、安そうなアパート、ありふれた一軒家、不味そうな中華料理店、光るネオンライトの看板。
流れる景色は実際に目に見えているはずなのに、なんだか虚構の世界に思えてくる。
この建物たちは、本当に存在しているのか。中は空っぽで、ただの張りぼてなんじゃないか。人が住んでいるはずの世界が、虚構の世界に見えてくる。
どの家にも洗濯物はぶら下がっていない。

駅に止まる。

大勢の人が波のように押し寄せてくる。この人たちのことを、僕は何も知らない。
名前はもちろんのこと、年齢も、性格も、声も知らない。もしかしたら名付けられていないエキストラかもしれない。
映画「トゥルーマンショー」のように、この映像が隠し撮りされてて、この電車内もセットかもしれない。
目の前にいる人たちはそれくらい感情がなく、虚構の人間に見えてくる。
どの人も、笑ってもないし泣いてもいない。


本を読む。

若い男女の日常を描いた青春小説。
どこにでもありそうな居酒屋で、どこにでもありそうな会話をしながら、どこにでもありそうな展開がただただ進んでいく。
登場人物はおそらく、どこにでもいそうな顔の人間たちなのだろう。想像でしかないが、リアルな絵面が簡単に思い浮かぶ。
僕も「どこかで会ったことあるよね?」とか「小学校の頃の友達に似てる」と初対面の人に三回に一回は言われる。そんな感じの人。
この物語は、紛れもなく虚構なのに、こんなにもリアルに感じる。窓に映る景色よりも、ずっとずっと、本物のように。
一行一行の描写が、僕に訴えかけてくる。


家路を歩く。

マジックアワーのような夕暮れが絵画のようで美しかった。
昔描いた下手な空の絵を思い出す。
飛行機が、おかしなサイズで、変な角度で、お尻から雲を出しながら飛んでいた。
たしか、実際の写真を見て描いたはずなのに、こうも違うかと子供ながらに感じた。
その絵は模写をしたけれど、まるで虚構のようだ。僕にはこう見えていたのだろうか、よく覚えていない。
その飛行機の窓が笑っていた。
飛行機にも感情があるというメッセージだったのかもしれない。
それとも、トーマスみたいな物語の一端を描きたかったのかもしれない。
この絵は、リアルなのか、虚構なのか。
飛行機が今にも喋りそうだったのを覚えている。


ドラマを観る。

設定にあまりにも無理がある。こんな美男がモテない役なわけないだろうに。
皆から避けられてるのもあまりにも不自然で、現実味がない。それでも、その中の世界では誰もツッコむわけでもなく、話は進んでいく。
芸能人がインタビューで、「学生の頃、モテたでしょ?」という質問に対して「いや、それが全然モテなかったですよ〜」というやり取りのように。
あれはもう飽きた。あのお決まりの問答を聞いて、誰が信じるのか知りたい。
そうこう言っているうちに、ドラマは終わる。どうやらシーズン2が決定しているようだ。
虚構は続く。


眠る。

夢の中の世界。
何が現実で、何が虚構だかわからなくなってくる。眼前に映る世界は、確実に現実なはずなのに、どこかリアルさがないときもある。
TVの中の世界の方が現実ぽいときもあれば、小説を現実と重ねるときもある。
電車からの景色が、歩く人々が、描いた絵が、どれもこれも虚構に見えてくる。
僕の夢の中はごっちゃごちゃになって、ぐるぐると回る。





虚像か、実像か。
リアルか、フィクションか。
虚構か、現実か。




朝起きて会社に向かう。

会社に入ると、会社員の格好をした人が、会社員の仮面を被って、会社員の演技をしてきた。

僕はそれに笑顔で返す。


「おはようございます!」

この世界は、虚構なのだろうか。


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