見出し画像

「どう思われてるか」の心理攻防戦


たまに大声で独り言を話す人を見掛けると、「ヤバい人だ…」「近寄らないようにしよ…」と内心ビビる。

でも、もしかしたら、その人も僕の心理をお見通しで、「近寄ってこないでほしい…」「ヤバい人を演じよう…」と、裏をかいているのかもしれない。

はたまた、「人目も気にせず政治を語る自分かっけー」かもしれないし、「おれの渋い声を女の子に聞いてほしい」かもしれない。
こちらから見たら一方的に変人として映ってしまっているだけで、実は深い真意を隠している可能性だってある。
そう思うと、無下に判断するのは危険なのだ。


ここから、僕と名前も知らない誰かの大心理戦が始まる。

電車内で、なんともいえない邪魔な位置にポジション取りをする人がいる。
めちゃくちゃ空いてるのに、次で降りるわけでもないのに、ドアの前で待ち構えて、駅に着く度にどいて、駅に着く度にどいて、の繰り返し、でもそのポジションは絶対に変えない人。

「邪魔だなあ」と思う僕。
待てよ、もしかしたら「邪魔だなあ、と思っている僕のポジションにつきたくて眈々と狙っているのでは?」と思う。


よし、確かめよう。


僕は自分がいたドア横の隅から、三歩程下がり、吊革に掴まる。
そうすると、やっぱり!その人が僕のいたドア横の隅のポジションに移動したではないか。
しめしめ、僕の思い通りだと、したり顔の僕。
その瞬間、乗換駅に到着し、大勢の人が降りることに。


すると、どうだろう。


僕は完全に人の流れのストッパーになり、降車するほとんどの人から、「邪魔だなあ」と思われる羽目になってしまった。
なんて策士なのだ。漫画「キングダム」で、向こうが動かないからこっちが動いたら罠だったみたいな作戦があった気がする。
まさにそれではないか。悔しい。
僕はその人が隅で優雅に過ごす横を、人の雪崩に遭いながら一度下車するしかなかった。


負け。次。

服屋で服を見ていると、声を掛けてくる店員がいる。僕はあまり声を掛けられたくないから、イヤホンをする。
それでも声を掛けてくる店員がいるから、僕はわざわざ外して、「はい」と答える。
聞こえてはいないが、おそらく「ご自由にご試着してください」といったとこだろう。


いや、待てよ。それもただの先入観。


もしかしたら、「その服カッコいっすね」というお褒めの言葉かもしれない。
もしかしたら、「お兄さん、芸能人に似てるって言われません?」というお世辞の言葉かもしれない。
もしかしたら、「宗教とか興味ありますか?」という勧誘の言葉かもしれない。
そうだとしたら、「はい」の返答に問題がありすぎる。
最後のケースの場合、知らぬ間に宗教に勧誘されてしまうではないか。

僕は不安と申し訳なさで一杯になり、せめて試着だけでもしようと決意する。
わざと袖が謎の長さの変なのを選んで、「ちょっと思ってたのと違いますね…」と購入を断念すればいい。

僕は店員に眼差しを送る。しかし、こんなときに限って先程のお調子者店員はやってこない。
もしかして、遊ばれているのかもしれない。
「なんか、ちっちゃい人来たんすけど」と店長へ笑い話を献上しているかもしれない。

そんなことを考えていると、先程の店員がやってきた。
「試着したいんですけど…」と言うと、そこまで声を張り上げず、「あ、試着ですね、こちらへどうぞ」と丁寧に案内する。
さっきあんなに声を掛けてきたんだから、もう少し喜んでよ…と思うが、まあいい。

試着が完了して、明らかに袖の長さが変な格好を店員に見せる。
これは、流石に似合っているとは言えない。
しかし、その店員は「あ、いいですねぇ」と関心そうに言う。お客さんみたいな体型の方だと丁度いいですと、自分でも何言ってるかよくわからないであろう発言をする。

もう、心の内は、「似合ってはないけど、とりあえず、買わせよう」シフトなのだろう。
「これなら半ズボンに合う」は「長ズボンでも合うけどな」に聞こえるし、「夏でも着れるし、冬でもインナーで着れる」は「大体の服、そうなんだけどな」に聞こえる。

全部が全部、裏の心理までも聞こえてきてしまう。でも、これらを押し殺して「似合ってる」と言ってくれるこの店員は、きっといい人なのだろう。宗教の勧誘なんてしないだろう。
そう思うと、なんかすんません、って気持ちになる。


僕は、「じゃあ、これ、買います…」と。
店員の「ありがとうございます!」が店内に響く。はい、負け。

心理攻防は疲れる。
裏を読んで、裏の裏をかいて、裏の裏の裏を読まれて。
結局、僕の考え過ぎの可能性が高いのだが、いつも裏をかかれてしまう。
素直に生きようと思うが、誰かの裏を想像するだけで、ここまでの物語も作れるのは、ちょっだけ楽しくもある。



もし、私の文章に興味を持っていただけたら、サポートお願いいたします。いただいたサポートは活動費として大切に使わせていただきます。よろしくお願いいたします。