映画「ラストマイル」はAmazon批判か?!
公開28日間で興行収入40億円のヒット
映画「ラストマイル」がヒットしている。
8月23日に公開されると、公開3日間で興行収入9.7億円、観客動員数66万人を記録し、公開28日間となる9月19日には興行収入40億円、観客動員280万人突破したという。
EC物流が舞台で異例のヒット
EC(ネット通販)業界でも「ラストマイル」に注目が集まっている。この映画の舞台がEC物流だからだ。かつてこんな地味な設定のヒットムービーがあっただろうか。
ただ、この映画の中でEC物流は、とても”クール”に描かれている。実際、EC物流の現場はテクノロジー化が進んでおり、その”進化”がしっかりと反映されていた。
その一方で、EC物流の闇の部分にもフォーカスしている。配送の”ラストマイル”(顧客に届ける最後の区間)を担うのは、決して裕福とは言えなそうな個人事業主の親子だ。中年の息子は家電メーカーが破綻し、次の仕事を求めて父親の仕事を学んでいる。あくせくと荷物を運んでも1個150円にしかならず、不在で届けられなければ0円と過酷な状況が描かれている。
テクノロジー化が進む大手ショッピングサイト「デイリーファースト」の物流センターと、配送を担う親子ドライバーやセンターで働くブルーワーカーの対比は、この映画のメッセージとも大きくかかわっている。高度に効率化していく大資本のシステムと、そのシステムの末端で働く人々の浮かばれなさが、社会の格差として露わになり、その歪みが悲しい事件を生んでいく。
「ラストマイル」で描かれている社会の歪みはとてもリアルなものだ。ECが社会のインフラとなりつつあり、その膨張するインフラを維持するために、苦しむ人がいてはいけない。そうならないために配送ドライバーの残業時間の規制が厳格化されたが、それにより、配送のキャパシティが足りなくなる「2024年問題」が生まれ、そのしわ寄せが個人事業主のドライバーなどの負担増につながっているのかもしれない。
リアルな描写の取り違いに注意
映画の描写はリアルだが、映画に登場する企業像や、少し過酷さを誇張して描かれている労働環境をそのまま受け取り、EC業界やEC物流に必要以上にネガティブなイメージを持ってほしくはないと思う。
映画の舞台となる大手ショッピングサイト事業者「デイリーファースト」は、オレンジと黒のロゴデザインで、「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」を標榜している。これは誰が見てもAmazonをモデルにしたように見える(もちろん公式にはそうだとは言っていない)。
Amazonが高度化させたEC物流や、「カスタマーセントリック」の名のもとに進めてきたサービスの進化は、より多くの人が便利にネットショッピングを楽しむために、築き上げられてきたものだ。映画で「デイリーファースト」の闇の部分を、Amazonのものと思い込み、批判するのはお門違いだといえる。
EC物流やEC業界の負の部分は、業界全体、もしくはその利益の享受者でもある消費者も含めて、考え、解消していくべきものだ。映画「ラストマイル」の制作陣も個別の企業や特定の業種を批判したいのではなく、社会の変化によって生じている弱い立場の人たちに目を向け、より良い社会のための問題提起として、メッセージを発しているだろう。
今回、映画を鑑賞し、EC業界の専門紙として感じた共感や違和感について、動画で語り合っている。ぜひ、こちらの動画も見ていただきたい。
これはAmazon批判か?!EC専門紙記者が映画「ラストマイル」を語る<前編>
EC物流はこんなにブラック? EC専門紙記者が「ラストマイル」を語る<後編>
EC業界向け専門紙「日本ネット経済新聞」で記者してます。EC、通販、モノづくり、流通、マーケティングなど取材していく中で紙面には書かない自分の考えや疑問について書いていきたいと思います