コロナ給付金に副作用はあるのか
私は「お金のしくみ」オンライン勉強会の参加者を対象にして、ツイッターで「お金のしくみ」質問箱というグループDMを開いています。そこでいただいたご質問と回答を転載いたします。
【ご質問】
初歩的な質問なのですが・・・
たとえば、コロナでGDP500兆の3割、150兆が毀損されると考えます。150兆は、政府に税金などで実物を吸い上げられたわけではなく、「金が回らない」という形で減ったわけです。
そこに給付金や補助金などで150兆入れるとします。入れる方は実物のお金を投入するわけですが、「金が回らない状態に対して実物を投入することで、後から出る副作用」、たとえば「後で余ってくる」とかは無いのでしょうか?
【私の回答】
本質を突くすばらしいご質問だと思います。
ありがとうございます。
経済を見る時に「「あとで余ってくる」とかはないか」という視点を持つことはとても大切です。
「あとで余ってくる」という言葉を言い換えると、「供給力が需要を上回る」ということになります。このような状況を「デフレ」といいます。
大切なので、もう一度言います。
いま余っている状態を「デフレ」といいます。
そうですね。すでにいまがデフレ。供給力が余っている状態です。
いまのようなデフレの時では、供給力が余っている状況です。財政を拡大して政府が支出を増やしても、余っている供給力と需要(消費)の差を埋めているだけです。
確かに、財政を拡大することで消費が増えると、消費が増えるのを見て投資家が投資を増やすこともあるでしょう。そうすると、社会全体から見れば、更に供給力が増えます。つまり、供給力は更に余る方向に向かう。
そうすると、更に財政を拡大しなければ余っている供給力を埋めることができなくなります。つまり、更に財政を拡大できるということになります。このような新しいお金の流れを創り出してはじめて、経済を成長させ、日本社会はデフレから抜け出すことができるようになります。
ここで、国債を発行する弊害は何かということを復習しましょう。
物価が上がりうるだけでしたね。
そうすると、物価上昇率が2%程度に上がるまでは、財政を拡大しなければならないという話にここでつながることになるわけです。
回答は以上です。
ただ、おそらくスッキリはされないでしょうから、蛇足になるかもしれませんが、次に「お金(通貨)は実物でない」という話をします。
言い換えると、「実物」という言葉の定義の話と捉えていただいてもいいかもしれません。
「モノやサービスを生産したり消費したりすること」を「経済」といいます。その時に、言葉の使い方として、モノやサービスのことを「実物」という捉え方をして経済の話を私たちはしています。
ここで、お金(通貨)は果たして「実物」と呼んでいいのか、という問いが出てきます。確かに、1万円札も500円玉も実体があるので、実物と呼びたくなります。しかし、お金はモノやサービスと全く違う性質を持っています。
それは、モノやサービスの流れとお金の流れは逆になるという性質です。
例えば、AさんからBさんがモノを買ったとします。
モノはAさん→Bさんへと流れます。
お金はBさん→Aさんへと流れます。
流れは逆になります。
ここで言うモノやサービスの流れのことを私たちは「実体経済」(じったいけいざい)と呼び、お金の流れのことを「金融」(きんゆう)と呼んでいます。
私が「お金は実物ではない」と言ったのは、このような意味です。
この点をもう一度考えていただければ、お金の性質を体得していただけるのではないかと思います。
ご質問、ありがとうございました。
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【追加のご質問】
(※中村:私の質問の理解が違っていたようです。追加で質問をいただきました。財政拡大によって増えたお金(マネーストック)により、コロナ後にインフレにならないかというご趣旨だったようです。)
「もともと普通に経済活動ができている国(GDP500兆)で、急にコロナ禍で150兆の毀損があった。その時に、150兆の財政出動すると、(出し方にもよりますが)とりあえず経済の落ち込みや生活の困窮は避けられるかもしれない。
さて、コロナ終息後に、どうなるのか? 普通の経済状況のところに150兆入れればインフレになるだろうけど、コロナ禍の落ち込み時に入れると、終息後にインフレになったりはしないのだろうか?」
【私の回答】
確かに新規国債発行+財政拡大でお金(マネーストック)はその分だけ増えます。150兆円の新規国債発行+財政拡大で、150兆円新しいお金が民間に流通するようになります。(ここでの民間というのは、金融機関を除く主体で、民間企業や民間人や地方自治体のことです)
しかし、政府の歳出増によって増えるお金は歳出増一回分の150兆円だけになります。コロナ後に特別に何か国民全体の賃金が増えるという特殊事情が生ずれば別ですが、特別何かをしなければ賃金が全体的に上がるという特殊事情は起こりません。
そうすると、コロナ対策のために使われたお金は、いままでの需要を支える程度にしか機能しないので、いままで通り、いままでの構造の中で増えた分のお金150兆円は一般家庭の貯金又は投資家の貯金や企業の内部留保に回ります。
つまり、今回のコロナ禍への対策で大規模な予算が執行されても、いままで通り、そのことがあったからといって国民への分配が増えるわけではないので、消費が増えるということにはなりません。
その結果、物価は上がらないということになります。
一方で、他の人からの指摘にもありましたように、増えたお金(マネーストック)は投資物件の購入資金に回る部分も考えられます。しかし、上述のように国民への分配の構造が変わらず、消費が増えるような状況が生まれなければ、投資利回りは下がります。
そうすると、投資した資金が回収しにくくなるために、投資物件に対しても投資資金の流入も止まります。そのため、ある程度の値上がりの後は資産の値上がりも止まります。
このように、コロナ禍によって需要が大きく減少した分を国債の発行+財政の拡大で穴埋めをしても、その分のお金は給付金のうち一般家庭の貯金に留まっている分以外は、企業や投資家に回りそこで貯金として蓄えられます。そして、賃金増という形では分配に回らないのでインフレは起こりません。
2%のインフレを達成するためには、コロナ後も、膨らんだ財政規模を維持して、インフレが進み始めたときに、金融緩和を縮小すると同時に、財政では膨らんだ規模を縮小していくという手法を採ることになります。
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