経済学者が気づいていない経常収支のしくみ

経済学者の奇妙な御主張

経済学者の野口悠紀雄さんが奇妙な御主張をされていた。
「将来は、日本国債を円滑に発行するために、海外からの投資に頼らざるをえない事態になるかもしれない。つまり、日本国債の市場を国際化しなければならない。貿易赤字拡大のニュースは、そうした可能性を示唆しているのだ。」

野口先生の記事では、あたかも現在の日本国債の市場が国際化していないかのような記述をされている。
しかし実際は日本国債は海外の誰でもが買える。国際化は既になされている。日本国債を外国居住者が保有していない理由は、単純に日本の貿易収支(正確には経常収支)が黒字だからである。

経常収支が黒字である日本国の通貨「円」は他の国の居住者は手に入れにくい。だから円で買われる日本国債を他の国の居住者が持っていないのは当たり前のことである。

また、経常収支の赤字が問題であるわけではない。
アメリカは経常収支の赤字国である。経常収支の赤字国の通貨でなければ国際基軸通貨にはなれない。アメリカは周到に世界一の純債権国から世界一の純債務国に転じ、ドルを唯一無二の国際基軸通貨にしたわけである。

純債権国が採るべき戦略

近代以降、世界一の純債権国になった国は、イギリスとアメリカと日本だけである。イギリスとアメリカは「お金のしくみ」を利用して経常収支を赤字化し、自国通貨を世界に流通させることに成功した。

こうした歴史の流れを見ると、むしろ日本の貿易収支の赤字化は歓迎すべきことであって問題にするべきことではない。日本が保有する外貨建て資産が膨大なうちに、他国への円の貸し出しを行い、円建ての貿易を増やせばいいだけの話である。

ただ、この戦略をとると、日本が世界の平和を実現する国になってしまう。アメリカも中国も従来型の覇権国をめざしているが、日本は別の次元で武力によらない平和外交、経済外交で世界平和を実現する国になってしまう。

未だ国際連合の敵国条項に指定されている国日本が世界平和を実現するリーダーとなるなんて、アメリカも中国も望まないだろう。

さて、日本はどのような戦略をとるのだろうか。
以上のことからも、問題は金融政策ではなく財政政策だ。

黒田日銀総裁の退任と植田新総裁の就任

日本銀行の黒田東彦総裁はよく頑張られた。
日本銀行の政策決定会合の内容を私たち国民にわかりやすくオープンに伝えてこられた10年だった。
財務省のご出身の黒田総裁が本当のことを分かっていなかったはずはない。しかし、今までのお立場で、できないこと、言えないこともある。
それを論理で読み解くのが私たち世間にいる者の勤めである。
黒田総裁には2期10年間よく勤め上げていただいたと、国民の一人として敬意と感謝を申し上げたい。

次の植田和男新総裁も黒田総裁の方針を踏襲される。
マスコミでは黒田総裁が独善的だった反面、植田新総裁は何もできないだろうという論調が目立つ。しかし、まったく事実は異なる。
黒田総裁は日銀政策決定会合の後の記者会見で非常に丁寧な説明に徹してこられた。オープンに議論をして自分の知見に頼らない集団的な指導体制を作ってこられた。植田新総裁もそのベースに乗って新しい舵取りをされる。何も心配することはない。

過少な令和5年度予算

むしろ日本の未来を左右するのは財政政策だ。
今年4月から始まる令和5年度の一般会計予算。
けっして無駄遣いを肯定するわけではないが、新規通貨発行となる基礎的財政収支赤字は10.7兆円と令和4年度の38.8兆円から比べると28.1兆円も減少する。圧倒的に予算規模が小さい。
結局、今年も秋の臨時国会で補正予算を組むことになるだろう。

計画的に財政規模を拡大して、
無駄遣いを排除して国民生活を第一に考える経済政策を行う。
こんな単純なことをするだけなのだが、日本はこの当たり前のことを30年間やらずに来ている。
さて、私たちは次の世代に何を残そうとしているのか。民主主義のあり方が問われている。

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