記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

映画「ロマンスドール」がとても良かった

 アマゾンプライムで、映画「ロマンスドール」を観たので、感想など書いていきます。ネタバレあります。

どんな映画?

 高橋一生演じる主人公の男・哲雄が、ふとしたことからラブドール工場の造型師として就職し、きたろう演じる先輩造型師・相川との企みから蒼井優演じる園子と出会い、短い期間にとても深い愛の証を残す、というお話です。

 ジャンル的にはラブロマンスですね。出演者の時点でそんな気はしていたものの、ラブドールが軸になった物語という触れ込みで、もしかしたらホラー要素あるんじゃないかと思って観始めたのですが、ぜんぜんホラーじゃありませんでした。あまりのラブロマンスっぷりに、終盤で涙ぐんでしまうほどのラブロマンスでした。

 きたろうやピエール瀧の存在が若干のコメディ風味をエッセンスとして足しているものの、ラブコメっていうほどはコメディじゃありません。序盤は軽快なテンポで悲壮感もなく話が展開していくのですが、中盤以降でガラリと雰囲気が変わり、仕事と夫婦、あるいは夫婦と性愛、夫婦と看取りというテーマに突き進んでいきます。

全体的な感想

 まず最初に思ったのが「ラブドールってこんな町の工場みたいな感じの場所で作ってるんだ!」という驚きでした。もっとなんかこう、セキュリティバチバチな近未来感のあるビルの中とかで作られてるようなイメージを勝手に持っていましたが、おじさんおばさんが頑張って型にシリコン流し込んでパーツを組み合わせて…とかやってるんですねー。別にドキュメントじゃないので、大手メーカーであるオリエント工業さんがこんなっていうわけではないのでしょうが、メーカーによってはこの感じなんだろうなあ、というリアリティを妙に覚えました。

 シナリオ的にはわりとありがちっていうか、大体が予想した範囲内で進んでいくのですが、逆にそのおかげで演技の素晴らしさに集中できたように思います。

 特に蒼井優の演技は絶品で、まったく過不足のない、完全に園子がそこにいるとしか思えませんでした。蒼井優って本当は園子なんじゃないのかと思うくらい自然で完璧な表情と仕草がそこにあって、瞬きの回数すら計算しつくされてるのかと思うくらいに極まった演技を見て、蒼井優素晴らしいなと感嘆し続けた120分でした。

 そしてピエール瀧。今やアレがアレでなかなか演技を見る機会にありつけませんが、ピエール瀧演じる久保田の社長らしさや元警官としての知恵や人脈、そして懐の深さには涙を禁じえません。たとえ達者・上手と呼ばれるような他の俳優が演じたところで、あの久保田社長にはなり得ません。唯一無二の存在感で、相川亡き後の工場と哲雄とこの作品を支えていたのは彼に他なりません。

哲雄と園子

 出会いは嘘から始まります。社長の久保田から「ドールの胸にリアリティを持たせろ」という指令があり、芸大出身の知恵を絞った哲雄の提案で、「医療用の人工乳房を作るための型取り」と称して美術モデルを募り、怪しみながらもやってきたのが園子でした。そして園子の胸を型どって作ったラブドールがバカ売れしたことで、かえって打ち明けづらくなるっていうところは笑えました。

 劇中、やたらセックスしている哲雄と(後に「スケベだった」と称された)園子でしたが、ある時を境に園子が離れていきます。哲雄はその間に出会った女と浮気しちゃいますが、その後の暴露合戦で白状した園子の浮気って、もっと前の話ですよねきっと。浮気しながらずっと素知らぬ顔してたのかと思うと怖い。リアル(笑)

 二人は園子の病気によって、より深い愛に突入していきましたが、園子を全身モデルにしたラブドールを作るっていう発想はすごいですね。だって、リアルに作れば作るほど、他の男に抱かれまくる妻っていうNTR要素が…。結果、100体限定とはいえ即完売しちゃったし!哲雄ちゃんいいのそれ?
それにしても、終盤のセックスシーンは生々しかった…喘ぎ声も動きもリアルで、更に蒼井優の愛撫がエロいこと。あんな風に愛撫されたい…

 話の筋とは関係ないですが、ラブドールのホールって別の器具を挿入してるだけだと思っていたんですが、そのこ1号に関してはホールまで一体型って事なんですかね。「それってアレとかアレとかどうなってるんだろう」と、違う方面の疑問が湧いたりもしました。

相川さん

 この作品の中で、哲雄の生き様に最も影響を与えたのは相川さんでした。きたろうが演じる、柔和な物腰ですっとぼけた印象でありながら、職人として揺るぎない軸のある人物は、劇中で亡くなった後までずっと存在感を残しています。

 相川さんの職人としての矜持というか「少しでも良いものを作って、いずれ究極の一品を作りたい」という本望は素晴らしいですね。時を追うに連れて良い素材が手に入り、徐々に究極に近づいていく。エラストマーに関しては、相川さんと哲雄のコンビだったらすごいものが完成してたんだろうなあ、と惜しい気持ちでいっぱいです。

 相川さんと久保田社長の出会い、そして社長と従業員になるまでのエピソード、とても良かったです。「ああ、久保田社長って、だからあんな感じなのか」という、脇役にしてはキャラが立ちすぎてるピエール瀧の振る舞いに関して、納得しかない感じになる部分でした。いい人ですねえ久保田社長。

最後に

 2021年もアマプラのおかげで沢山の映画やドラマを視聴できていますが、8月末現在で今年観た中のナンバーワンと言っても過言ではありません。
シビれる展開もアッという逆転もありませんが、じわりじわりと、小笑いしたり修羅場を見たりしながら、胸を締め付けられる終盤に向かって進んでいく120分をどうぞ楽しんで頂きたいな、と強く思いました。(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?