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一期一会

多種多様化する動画配信アプリ。
その中でも上スワイプ操作するだけで次々と短い動画を視聴できるものがある。
AIが個人の傾向を掴んで動画を選ぶので、なかなかに中毒性が強いそうだ。
このアプリは、流行りの曲を用いた撮影やオリジナル音源の登録もできた。

留美さんはバンドを組んでいる。
何とか人気が出ないかと模索していた時。
その動画配信アプリで認知度を上げることを思いついた。
実際アプリを使ってみると、自分と同じような目的で使っている人間が多いこと。
早速自分のバンドでも投稿を始めた。
有名な曲をカバーすれば、そこそこの閲覧数が稼げる。
しかし、オリジナルソングは伸びが悪かった。
登録した音源も使われることはなかった。
他のバンドはどうしているのだろう。
すでにAIによって音楽関連の動画しか出てこない留美さん。
スワイプを繰り返し、時間を溶かした。

しばらく観ていると、学校の音楽準備室のような所で撮影された動画が映った。
スタジオや自室というのはよくある。
これは学校で、しかも音楽室ではなく、準備室。
楽譜や楽器、ギター弦らしきものが雑多に置いてある。
珍しく思った。
中央には制服姿の少女がひとり。
楽譜を持ち、背を丸め立っている。
歌おうとしているのか、口を開く。が、すぐ閉じる。
自信の無い姿にじれったさを覚え、スワイプした。
次の動画も、また同じ少女が映った。
先程より近付いたバストアップの構図。
やはり、なかなか歌わない。
近いせいか、唇が震えていることに気付いた。
なんの参考にもならない。またスワイプする。
次の動画は、女の口元のアップだった。
これも、おそらくはあの少女。
動画の雰囲気。頬にかかる髪の様子。
震えている唇。
時折、手ブレで喉元や制服が映る。
口が開いた。
彼女の白い歯が覗く。

「見ないで!!!」

大音量の一言。
留美さんは驚いてスワイプした。
画面には楽しそうに歌う男女。
携帯の音量がを確認するが、大音量が出るような設定ではなかった。
なんだったのだろう。
下スワイプする。
本来なら先程の少女の動画に戻るはず。
だが、ピアノを弾き語りする女性が映った。
その後、何度操作しても少女の動画が現れることはなかった。

留美さんは、この少女の喉元が忘れられないと話す。
手ブレで一瞬見えた細く白い首。
そこに横一直線に走る細い赤痣。
何かの事件性があるものではと何度も検索したそうだ。
しかし、いくら探しても同じ動画に巡り会うことはなかったという。

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