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退屈紛れの神舞

麻美さんの小学校は城址跡にほど近く、いつもそこで友人と遊んでいたそうだ。
天守閣や日本庭園がしっかりと残るこの城、敷地の中には神社があった。
とても古く、ささくれや白く乾いた木材が目立ち、賽銭箱さえボロボロだったという。


この日はかくれんぼをしていた。
麻美さんは真っ先に神社を目指した。
ここは拝殿と舞殿がひとつになっており、その床下は子供が忍び込む程度の隙間がある。
常駐する人間もおらず、隠れるにはもってこいの場所だった。

神社に到着すると、背の小さい男性が舞殿で舞っていた。
のっぺら坊の面をつけ、白い衣装で扇子を広げている。
色鮮やかな紐が数本、一括りにされた髪と共に揺れていた。
どこからか小太鼓の音もして、しばし見惚れた。

「麻美ちゃんみっけ!隠れてないじゃん!」
友人から声をかけられ、我に返る。
離した視線を舞殿に戻すが、そこには誰もいない。
「あれ…踊ってる人がいたんだけどな…それで見惚れちゃって…」
「そんな人いた? 私が来た時は麻美ちゃんがボーッとしてるだけだったよ」
「えぇ…太鼓の音とかしなかった?」
友人には夢でも見てたんじゃないか、と言われた。

その後もかくれんぼは続くことになった。
やはり神社に足が向く。
社が見えるあたりに行くと、先ほどとは別の男性が舞っていた。
次は扇子ではなく、鈴が沢山ついた棒を持っている。

見ていたいが、次は隠れていないとさすがに怒られてしまう。
麻美さんは物陰から、舞殿の下にそっと忍び込んだ。
潜ると、奥の方に外の光が見えた。
神社の裏らしき場所へ行けそうだったのだ。
光に近づき、板の隙間から出ようとした時。
大木の下、舞殿の男性と同じ格好の人が十人ばかりいることに気が付いた。
白い衣装のせいか、眩しいほど明るい。
みな面をつけたまま、楽しげな様子だった。
見つかって𠮟られるのを恐れ、麻美さんは元の位置に戻った。

「あーさーみーちゃーん!どこー!」

友人らの大声が聞こえ、床下から飛び出す。
そこには怒った面持ちで友人が揃っていた。

「麻美ちゃん!どこにいたの!」
「神社の下だけど…」
「一時間も隠れていないでよ!心配したんだから!」

麻美さんは神社裏の光景をみて、すぐに戻った。
体感は五分程度のことだったが、なぜか一時間経っていたという。


この話、大人になってから急に思い出したそうだ。
きっかけは、喪中。
神棚に白い紙を貼り付けて神棚封じをした時に、既視感ようなものを感じたらしい。

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