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アマリリスと祖母

敦大くんは小学校高学年。鍵っ子でオマケに母子家庭。母親は滅多に家にいなかったし料理なんて作らなかった。
それでも年に何回かはご飯を炊いて、不恰好な、それでもお母さんの手作りというだけで美味しい料理を出してくれた。
その年数回のおふくろの味が、毎日食べられるようになったキッカケがあるそうだ。

学校から帰り、家に上がった瞬間。炊飯器のアマリリスのメロディが聞こえた。
ご飯が炊きあがった音だ。
普段は母親が置いて行ったコンビニ弁当が夕飯だった。今日はお母さんがご飯を作ってくれているのかもしれない。敦大くんは嬉しくて台所に走った。

ご飯の匂いが充満する狭い台所は真っ暗だった。そればかりか家には人の気配がない。
母親は夕飯を作って仕事に行くようなマメな人ではなかった。仕事が早く終わったり休みの時に気まぐれに作った。
ご飯だけ炊いておくなんて事は今までなかった。
今は出かけているのかもしれない。
そう思い敦大くんはじっと待った。
一時間二時間、いくら待てども母親は帰ってこない。
もう我慢の限界だ、ご飯だけでも食べてしまおう、と炊飯器を開ける。

中は空だった。
釜に水滴の乾いた跡があるのがはっきりわかるほど中身は何もなく、冷え切っていた。

それからというもの、帰宅した瞬間、家でゲームをしている時、宿題をしている時、一人でいる時間にどこかでアマリリスが聞こえ、炊き立てのご飯の匂いがするという現象が起きた。
毎回炊飯器を開けるのだが、いつも空だったという。
焦がれすぎたのか、夜は必ず手作りご飯を食べる夢を見た。
ご飯を食べる様子を、死んだはずの祖母がにこにこしながら見ている、そんな夢だった。

敦大くん、今はもう成人しているのだが最近母親にこんな話を聞いたそうだ。
「夕飯に置いてあったお弁当を食べない時期あったわよね。
やせ細っていくからお弁当食べないの?って聞いたら、おばあちゃんがご飯炊いてくれているからって…私が作らないからノイローゼになったのかって焦ったわ…しかもおばあちゃんなんて生前あなたのこと抱いた事も無いぐらい嫌っていたじゃない?」
敦大くんはその瞬間鳥肌が立った。
確かにあの頃弁当を食べた記憶がない。置いてあったかも覚えていない。
しかしご飯を食べたなんて話した記憶もない。
母親はいつの間にか料理を用意してくれるようになっていたと思っていた。
もし祖母が自分を殺そうとしたなら全て繋がる気がする、と。


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竹書房 怪談マンスリーコンテスト 1月テーマ『家電』で投稿した作品です。
佳作を頂き、更に今回はお正月スペシャルで文庫本3冊選べました…ありがてぇ…ありがてぇ…

序盤に『それでも』を2回続けてしまったところがあって、投稿した後に気付きました笑
なのでどうせ選ばれないだろうとタカをくくってました。出来は自信あったので、せめて2次選考ぐらい進めていたらいいなと思っていたんです。
だから結果発表の日は公式ページ何度も更新していました。
あの黒いページに私の名前ないかなーなんて。

1/31 21時台。一通のGmailが入りました。佳作?え?
テンパりつつ、返信。
公式を覗き、まだ更新されていない事が確認できました。
夢か?たぬきに化かされたか?
最近ここらでもたぬき出るみたいだしな。
そわそわしつつ確認するTwitterのタイムライン。
赤いアイコンが結果発表を告げています。
私の名前があります。

あれ?それじゃあ、佳作ってことは、りっきぃさんに朗読されているのか?!?!?!

この日まで自分の凡ミスに凹んで動画の確認をしていなかった己を恨みました。

https://youtu.be/arkVL0B99cE

7:40ぐらいから、読まれているじゃあないですかぁぁぁ…
ティッシュが必要。
涙と嬉ションが止まらない。

私、12月に人生初のタロット占いをしました。
その時に『半年以内に結果が出ます。しかもお金になります。』って言われてたんです。
逆に半年以内に何もならなかったら辞めようって決めた瞬間でもあります。
何にもなりましたね。佳作じゃろ、と言われるかもしれないけど。
朗読までされて感無量です。
6月までまだまだあります。前進あるのみじゃないですか。

まだまだペーペー。
こちらで実話怪談は6作目。
実話は取材も大変なので頻繁に手をつけられないけど、文字起こしスキル鍛えていきます。

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