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記憶の紙魚

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雨森が集めた怪談。 こっそり怪談イベントの感想も。 ※朗読や語り利用されたい方はご連絡ください。 内容の肉付け含め相談OK。勉強中のため無償です。
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#竹書房

降る髪

美容師を務める倫子さんは実家暮らし。 家は古く大きく、地下にも部屋があるという。 この部屋については「ミグシ様がおるでな。行ったら顔をあげちゃいけないよ」と教えられて育ったそうだ。 地下室の清掃は月に一度。 父親が担っていたが高齢の為、倫子さんが引き継ぐ事になった。 説明を受けるために父親と共に地下へと向かう。 部屋に入る前に「必ずこれを履くように」と足袋を渡された。 見ると父親はすでに足袋を履いていた。 扉に手をかけ、顔をあげないように首を下に向けた体勢で入る。 狭い視界

姉は羽化する

仁美さんには双子の朱美さんという姉がいた。 お姉さんは重度の障がいをおって産まれ、ずっと部屋で寝ているだけだったという。 その姉の喪があけたので、と話を聞かせてくれた。 元気に走り回る仁美さんと比べ、車椅子でも動くのが辛い朱美さん。 言葉も不自由であったが、姉妹の絆なのか、不思議と二人は意思疎通に困らなかった。 姉が何を言って、何をしてほしいのか。それが仁美さんにはわかったらしい。 窓から蝶が見えれば『蝶をゆっくり見てみたい』という姉の気持ちが頭に浮かび、外で蝶を捕まえて

夢抱く腹

郁乃さんは三十代だが、ご両親はすでに他界している。 両親共に高齢での妊娠出産だった為というが、それでも幾分か早逝にように思えた。 そんな彼女がこんな話を教えてくれた。 当時、ご両親は四十代半ばあたり。 長年、子供を望んでいたそうだ。 しかし、景気も悪い時期で、今から子供が産まれても経済的に余裕がない。 もう無理か…と諦めかけていたところで妊娠が発覚した。 なんと二つの命が胎内で育ち始めていたのだ。 ようやく授かった我が子。余裕はなくとも大切に育てると決めた。 性別がわかる頃

水中稲

裕太さんは、学生時代、全国区レベルの水泳選手だった。 今はその時の経験を活かし、整骨院を営んでいる。 なぜ、選手を引退したのか。その理由を教えてくれた。 裕太さんには2つ上のお兄さんがいた。 兄弟で幼い頃からスイミングスクールに通い、常に二人で大会に出ているほどだった。 いつも表彰されるのは兄で、自分はいまいち伸びが悪い。 「ユウ、大丈夫だ。お前はちょっと臆病なとこがあるだけだ」 兄はそう言っていつも慰めてくれたが、結果の出ない試合には飽き飽きしていた。 中学にあがる頃

野戦の跡

最恐戦2021、朗読部門の原作に選出されたので、より多くの人に朗読されたくnoteにあげてみることにした。 ファイルでほしい方は竹書房様公式からどうぞ。よみがな付きです。 『野戦の跡』 バイクで旅をし、写真を撮るのが好きな遠藤さん。 ある旅の途中、ずいぶんと古びた建物を見つけた。 公道から脇に砂利道が伸び、崩れかかった石造りの門があり、手前には四角い建物、奥には家屋らしきものが見えた。 少し進んで様子を伺うに、人の住んでいる気配はなく、廃墟のようだった。 荒廃

ひとつ目提灯の道標

思いがけず、嬉しい感想を頂戴した。 ので、私もつらつらと思った事を書いてみたくなった。 竹書房さんが毎月開催している怪談マンスリーコンテスト。 2月の最恐賞に輝いたのは丸太町 小川さんだ。 以前よりTwitterやコンテストの選考通過者でお名前は拝見していた。 名前の字面とアイコンのかわいらしさが妙にツボなのも相まって。 どんな方なのだろうと探れば、エブリスタで実話怪談を掲載していた。 ペタペタと、素足で近づいてくるような物語の運び。 シンプルでいて純文学的な表現。 怖い話

アマリリスと祖母

敦大くんは小学校高学年。鍵っ子でオマケに母子家庭。母親は滅多に家にいなかったし料理なんて作らなかった。 それでも年に何回かはご飯を炊いて、不恰好な、それでもお母さんの手作りというだけで美味しい料理を出してくれた。 その年数回のおふくろの味が、毎日食べられるようになったキッカケがあるそうだ。 学校から帰り、家に上がった瞬間。炊飯器のアマリリスのメロディが聞こえた。 ご飯が炊きあがった音だ。 普段は母親が置いて行ったコンビニ弁当が夕飯だった。今日はお母さんがご飯を作ってくれてい

安全祈願

小雨が降りどんよりとした空だった。 こんな天気の日は危なそうだと思い、何となくバイクにつけてあった交通安全のお守りを胸ポケットに入れた。 私は鍼灸師であり、とある愛好家だ。 学生時代授業で扱った人体解剖が脳裏から離れないのだ。死体に関わると胸がざわざわといい気分になる。 死体を求め、そろそろ人を殺してしまいそうだと思った時。 ネットで樹海自殺の情報を見つけた。 これなら合法で死体を眺められる。 私は逸る気持ちを抑えきれずに休みの度にバイクに跨った。 樹海に入ってもすぐに死体