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記憶の紙魚

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雨森が集めた怪談。 こっそり怪談イベントの感想も。 ※朗読や語り利用されたい方はご連絡ください。 内容の肉付け含め相談OK。勉強中のため無償です。
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2021年5月の記事一覧

首を絞める女

とある女性から「あの場所を通ると溺れる夢を見るんです」と言われた。 もちろんお話を聞かせて頂くことにした。 そんな不思議なことがあるのかと聞いてみれば、その場所は私もよく通る。 たしかに何か辛気臭くて、黄ばんだような蛍光灯の色が気持ちが悪い。 そのうえトンネルのようになっていて無機質な感じがする。 「その場所を通ると、その日に?」 「ええ、その日の夜に。夢に女性が出てきて、溺れさせようとしてくるんです。 息苦しくって、起きると本当に息ができなかったみたいになってます」 「…

髭剃りデスマッチを観た

―それは王者の証。 勝者は不敵な笑みを浮かべ、刃を手にした。 うららかな陽ざしが気持ちがいい春、4月10日。 私はその日の予定を消化しながら、ある配信を楽しみに過ごしていた。 最近ハマっているニコニコ生放送。 怪談を扱うようになってから怪談師さんの配信に夢中になっている。 この日の配信で絶対リアルタイムで観るぞ!と心に決めていたのは 【髭剃りデスマッチ】 という、怪談バトルものだ。 きっと大体の人がM-1のようなトーナメント形式のものを想像するかと思う。 しかしこれは1対1

最期の手紙

芳久さんは葬儀屋で働いた経験がある。 葬儀屋なんて気楽なものだろうと始めたが、これがなかなか疲れる。 祭壇を作ったり棺を運んだりで体力を、遺族への対応で気力を削がれた。 それに、変なものが見える時もある。 そんな中、意外にも知らない人間の遺体の不気味さは、すぐに慣れた。 生きている人間の不気味さのほうが、余程慣れないものだ。 その日の持ち回り表には、事故損傷の旨が記載されている現場があった。 事故死の場合は遺族と警察に向かい、葬儀屋が遺体を受け取る。 黒ビニー

塩の手

まだ小学生だった頃、母は毎朝早くからリビングで内職をしていた。 紙を折り畳むような作業をしている手指。 母の手は色白で指が長く綺麗だなぁと、思ったものだ。 内職が終わると朝食の時間になる。その頃は毎朝パン食だった。 母が作るバタートーストには不思議に思う事があった。 出てくるものは綺麗なキツネ色なのに、キッチンは焦げた匂いがした。 そして、母は決まっておまじないをする。 「はい、今日も一日元気になれるおまじない!」 そう唱えてから、目の前で小瓶からひとつまみの

夜空に昇るモノ

ある日、真夜中に目が覚めた。 こういう時はいつも怖い思いをする。 どんよりとした空気に金縛りが常だった。 なのに今日は空気が澄んでいる。 変なものがいないのか、それとも冬が近いせいだろうか。 (月が綺麗だなあ…) 子供部屋の破れた障子ごし、夜空の月が真っ白に輝いているのが見えた。 妹弟達の寝息と時計音が響く。 葉純はうまく寝れずに、ぼんやりと月を眺めていた。 怖いものがない、夜の穏やかさを感じた。 どのぐらい経っただろうか。 月に、夜空に、黒い点々としたものが付いている