見出し画像

プロの私が失敗したこと

一級建築士の私が築48年の中古物件を購入して、リノベーションした体験談について書いていますが、今回は思い切って失敗したことについて書きます。
プロだってクライアントの立場に立つのは初めてで、分からないこともあります。
特に失敗したのはお金のことでした。

1.ノリと勢いではじめた家づくり

まず、今回のプロジェクトはノリと勢いではじめたと言って過言ではありません。
そのため「アパート暮らしが嫌だなー」とか、「妻がフリーで写真の仕事はじめたし、スタジオなんかあったほうがいいでしょ!」とか言ってるうちに試しに中古物件でも探してみるかという軽い気持ちで動いてみたら、想定よりも早く良い物件にめぐり逢えてしまいました。
一般の方なら少し躊躇するかもしれませんが、建築の仕事をしているからか、家づくりをするという行為についてはハードルが低い感覚を持ち合わせているので、トントン拍子で動けたのかもしれません。
そんなスピード感で動きましたが、実は不動産の売買に携わったのは公私ともにこれが初めて。
どんな手順で、どんな期間で、またどれぐらいのコストの余裕をみて動けばよいのか深く理解していませんでした。
職務経歴としては、コンクリートや鉄骨の一般建築の設計事務所で4年、住宅会社に転職して3年目のタイミングで家づくりをしました。
住宅は土地が決まった新築か、お客さんが住んでいる住まいのリフォーム、リノベーションを経験してきたため、不動産売買が伴うリノベーションは初体験でした。

2.調査不足で露呈した予算不足

リノベーションでも、お客さんが住んでいる家なのか、不動産を購入して行うのかによって一番違うのが調査にかける時間です。
お客さんが住んでいる家であれば、お客さんの合意さえ得られれば何度も現地調査を行うことができ、より精度の高い見積もりが可能です。
しかし不動産を購入して、その物件をリノベーションするのは何度も現地調査をすることは非常に困難です。
以前のnoteにも書きましたが、基本的に不動産は早い者勝ちです。

何度も調査をしているうちに、他の人に購入されてしまったらその時点でプロジェクトはお終いです。
そのため一度の調査で、見積もりをするための多くの情報、正確な情報を得なければなりません。
また自己資金で不動産を購入して、リノベーションの工事費用だけローンを組む場合はまだいいんですが、私のように不動産の購入とリノベーション工事費を合わせてローンを組む場合、不動産の購入に踏み切るまでにローンの総額を決めなければなりません。
通常、基本設計という間取り検討をし、実施設計というより詳細な細部の納まりや使う材料の仕様などを決めて、ようやく積算、見積もりという流れになります。
しかし不動産+工事費の場合は、細かく検討している時間的な猶予はありません。
基本設計の間取り程度のレベルで、概算見積もりという形で金額を決めて、早々にローンの審査を受けて、不動産の売買手続きに移らなければなりませんし、解体して不測の事態が発生することを加味して予備資金を含めたローン金額の確定が必要です。
経験が浅かった私は、調査で収集すべき情報の量と精度が不足し、概算見積の金額が甘くなり、予備資金もそんなに多く見ませんでした。
その結果、起きたのが追加工事費の発生です。

3.追加工事費を増大させた建築士のプライド

追加工事費が発生した最大の理由は、建築士としてのプライドです。
せっかく家づくりをするなら、その過程にも意味を持たせたいと考え、積極的に現場見学会やワークショップを開催しました。

工事中の現場にお客さんが来て、そこで家づくりについて学んでもらうという形をとったため、中途半端なことや説明ができない妥協ができなくなってしまいました。
「やっぱり一級建築士さん、色々考えて家づくりしたんですね!」と言ってもらえるよう、恥ずかしくない家づくりをするために見栄を張っちゃったんです。
結果的には、完璧とは言えないが評点ほぼ0から0.65程度まで耐震補強し、Heat20G2同等まで断熱補強をしたことで、耐震診断について学べ、快適な温熱環境で暮らせているので満足していますが、当初の概算金額からは仕様をアップしているため追加工事費が必要になってしまいました。
ただし、その追加工事費は投資みたいなもので、今後光熱費というランニングコストで回収可能という試算になっています。

4.忘れていた不動産取得税の存在

入居して春先に届いた書面に驚きました。
不動産取得税という存在をすっかり忘れていたのです。

住宅で3%、土地で3%かかりますが、通常の新築住宅であれば評価額から最大1200万円控除されます。
中古物件の場合は新耐震基準に建てられたものか、旧耐震基準でも耐震補強等により新耐震に適合していることが証明(適合証明書の発行)できる場合は、一定の控除が受けられます。
しかし私が取得したのは昭和56年以前の旧耐震基準の物件で、耐震補強も不十分だったため、控除が一切ありませんでした。
土地、建物で約850万円で取得したので、その3%の約25万円しっかりと納税しました。
不動産取得税は、忘れた頃にやってきて、追加工事費や家具家電の支払いが終わって、一番お金が無い時に求められるので、かなりの痛手でした。
不動産取得税のことも普段の仕事で頭には入っていますが、実際請求はお客さんのところに直接届くし、控除があるからそんな大きな金額では無いというイメージで、うっかり忘れてしまっていました。
これは知識として頭にあっても、実際クライアントになって自分の身に降りかかってこないと実感できないことであり、しっかり当事者意識を持たなければいけないという教訓になりました。

5.必要な失敗は成功体験

このように私はお金のことを中心に、私は自邸のリノベーションで失敗をしました。
もう有名すぎて書く必要すら無いかもしれませんが、キングコング西野亮廣が近畿大学の卒業式スピーチでこんなことを言っていました。

失敗した瞬間に辞めてしまうから失敗が存在するわけで、失敗を受け入れて、過去をアップデートし、試行錯誤を繰り返して、成功に辿りついた時、あの日の失敗が必要であったことを僕らは知ります。
つまり、理論上、この世界に失敗なんて存在しないわけです。
(キングゴング西野亮廣の近畿大学卒業式スピーチより抜粋)

今回の経験で思考を辞めたり、諦めてしまったらそれは失敗ですが、私は自邸での経験をフィードバックして、今後出会うお客さんとの家づくりを成功させるためにアップデートさせました。調査不足から概算金額の甘さ、不測の事態を超えた追加工事費が発生したので、この調査段階を情報量多く、精度高く行うようにならなければなりません。
また私は会社員のため、私一人ができても意味がなくて、社員で複数できる人がいなければなりません。
だから経験者である私が率先して調査マニュアルを作成し、調査すべき項目を明確化し、調査したかどうかチェックできる様式を作成しました。
現在リノベーションの相談があった際に用いるようになっています。
自分の失敗をアップデートし、現在は試行錯誤を繰り返しているの段階かもしれませんが、この経験が近い将来リノベーションの成功にたどり着くはずです。
つまり、理論上、私はリノベーションに失敗していません(笑)

建築と写真で素敵な生活のサポートをしたい