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なぜ新築住宅ではなくリノベーションを選んだのか

答えは簡単で、お金がなかったから。

一級建築士で、注文住宅の仕事をしていて、なんでわざわざリノベーションを選んだのかよく聞かれる。
最初からリノベーションに憧れてたからですよね?と何人にも言われた。
それは違って、単純に自分たち夫婦の希望に対して、新築住宅が不可能だったからリノベーションにせざるを得なかった。
夫婦の要望をまとめるとこんな感じだ。

1.金沢市内に暮らしたい
2.写真スタジオスペースが確保できる広い家、土地に住みたい
3.断熱性能が高く(*HEAT20G2程度)、快適な暮らしをしたい
4.住宅ローンは夫である私だけで借りる
(妻は個人事業主なりたてで所得証明ができず借りれない)

どう考えても無理だ。
もし仕事でこんなお客さんが来たら、お断りするかもしれないぐらい無理だ。
スタジオスペース付きの住宅を金沢市内に構えるには、ざっと見積もっても4500万円は必要で、カツカツの生活をして世帯年収650万円以上無ければ返済は不可能だ。
その理由は以下の通り。

<土地の話>
金沢市は新幹線開業以来、土地が非常に高騰している。
20万/坪で見つかればラッキーだけど、狭かったり変則的な形をしていたりするし、25万/坪は覚悟したい。
そこにスタジオ併設の広さを求めたら土地で60坪は欲しいところだから、土地の取得で1500万円。
実家のかほく市には、新築住宅を建てられる土地があるけど、金沢市に住みたいという妻の要望には叶わないので、その案は却下だ。
土地で1500万円は覚悟しなければならない。

<住宅の話>
注文住宅の住宅会社に設計士として勤めている私が、他の住宅会社や設計事務所に頼む訳にいかず、当然自分で設計して、自社で施工を行う。
地元の住宅会社や工務店と言われる会社の平均的な坪単価は55万円前後となっている。
最近では坪単価で計れないことが多いのは承知の上で書いているが、4人暮らし想定であれば33坪は欲しいところで、その他にスタジオになるスペースを設けたいので述べ45坪ぐらいの住まいになるだろう。
それに加えてHEAT20G2基準まで断熱性能を上げたいこと、スタジオ用途で特殊な仕様が想定されるので割増計算をし坪単価58万円で計算してみよう。
45坪×58万円=2610万円
その他に地盤改良、エアコン、カーテン、外構工事が別途加算されるので、あっという間に3000万円だ。

<住宅ローンの話>
ここで収入と住宅ローンの関係を整理する。
石川県の平均年収は445万4300円、金沢市の平均年収は326万2825円というデータがGoogle検索で出てきた。
おそらくこれは額面なので、手取りはこの80%程度と考えられる。
石川県では356万円、金沢市では261万円となる。
住宅ローンの借入金額はおおよそ年収の5〜7倍程度と言われている。
石川県基準なら1780〜2492万円、金沢市基準なら1305〜1827万円となる。
私の給料をここで公表する訳にいかないが、金沢市以上、石川県未満というところです。

<まとめ>
土地で1500万円、スタジオスペース付きの住宅で3000万円、合わせて4500万円が必要なところで、住宅ローンの借入金額が2500万円にも満たないとなると誰がどう考えても無理だ。
石川県民の現実は、夫婦共働きで共同ローンや土地は親の支援というパターンが多い。
土地もないのに単独で住宅ローンを組む20代、30代の人は建売住宅を買っている。
だから年間の着工棟数の上位を見ると建売系のローコストビルダーがベスト5の大半を占めているんですね。

新築が無理なら、家づくりを諦めてアパート暮らしを続けるか、他の方法を考えるしかない。
そこで思いついたのが中古物件を買って、リノベーションする方法だ。
次回はリノベーションに方向転換してからやったことの話を書くことにします。

*HEAT20
2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会が定めた断熱性能の基準。
G2基準は冬場のエアコンの間欠運転で、体感温度が概ね13度を下回らない程度の断熱性能をさす。

建築と写真で素敵な生活のサポートをしたい