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コロナ禍における英国デザインスクールでの学び(Autumn Term振り返り)

Autumn Termが終了しました。深刻なコロナ禍の英国、国/大学院/レジデンスそれぞれのシステムで目まぐるしくレギュレーションが変わる非常にカオスな環境でした。授業はオンラインをベースに、一部オフラインを取り入れるハイブリッド形での運営。大学院・教授・学生が試行錯誤をしながら、新たな学びをプロトタイプした2ヶ月でした。束の間のTerm間休暇に、Autumn Termを振り返っておきたいと思います。

●どのように学んだのか?

冒頭に述べたように、Autumn Termはオンラインをベースに、一部オフラインを取り入れるハイブリッド形での運営となりました。具体的には、約40名のクラスをA・Bの2グループへ分け、隔週ごとにキャンパスへのアクセスが許可されました。また、基本的に火と水の週2回に対面重視のクラスが集中的に構成されたことで、実質キャンパスへ足を運ぶのは月に4〜5回程度でした。

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上)クラスの最大収容人数は20名、ソーシャルディスタンスにも配慮
下)例年に比べて閑散としたキャンパス内

正直、学習環境としては物足りなさも感じましたが、100%オンラインの方針を打ち出している教育機関もある中、文句も言ってばかりはいられません。大学院・教授陣も様々な工夫を凝らしながら、学習の質の担保・向上へ腐心している様子もよく伝わってきました。むしろ、この強烈にカオスな状況を共有する仲間として、新たな学びのシステム・体験を一緒にデザインしていこう、という気持ちを呼び起こされました。

授業は月〜水中心に実施され、1日平均3コマ(午前中2-3時間・午後3時間)、木・金はグループワークや予復習がメイン。私の場合は学びと並行し仕事も行っていたので、時間管理は人並み以上に意識をして取り組みました。(以下参考までに、とある平日1日のスケジュールです)

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週次でPDCAを回しながら、定例会議は日本時間夕方(16-18時)をベースに設定依頼、リサーチ&資料作成はレスがない日本時間(5-7時)に集中的に対応、メール対応は日本時間(8-10時)に優先度高いものから対応、する形へと少しずつブラッシュアップしていきました。また、クラスメイトには、予め私がビジネスと学びを両立している点を伝え、グループワーク(Zoom会議)は夕食の時間帯での実施を依頼。その分、ビジネス領域の知見を還元したり、リサーチ・分析関連の業務を進んで受けるなど、貢献ポイントも留意するようにしました(前回のnote記事に書いたようにクリエイティブ属性の人間が50%おり、ビジネス思考ができるクラスメイトが決して多い訳ではないです)。

●何を学び、どのようなことを経験しているのか?

このMA Innovation management(IM)では2年間を通じて、イノベーションを導くマインドセットとメソドロジーを実践的に学ぶことになります。Term最初のIM概論の授業では、コースの目的を‘Creative Strategies for Change’を習得するところであり、変革・創造の実践者として以下の3つのスキルを育む事が伝えられました。

”Creative Strategies for change”
①Design (making) skills
②Process (management) skills
③Complex (creative, social, tactical) skills

この方針に基づき、1年目のAutumn Term(2年間を6つのTermに分割)では、以下の3つが授業の柱として構成。




A:MA Innovation Management Plus(IM概論関連)
B:Service Innovation Project
C:Discourse Project



このうちAはレクチャー、BCはプロジェクトワークが中心です。加えて、この3つの柱以外には、外部のプロフェッショナル人材がチューターを務めるメンタリングプログラム、クラス活性化の企画を起案型で行うコラボレーションプログラム、外部ゲストを招聘したインスピレーショントーク、大学院内外で開催されるオンラインカンファレンス・セミナー情報などが提供されました。実践ベースで、IMを多角的に捉える工夫が随所に施されたコースデザインだと感じます。参考までにAutumn Termのコアとなる授業、印象に残ったレクチャーを以下共有まで。

Service Innovation Project

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(コメント)このプロジェクトでは、まずサービスデザインのメソドロジーに関してレクチャーを受けます。この知識を土台に、グループごとに設定されたテーマに関するイノベーション機会を探索・特定し、最終的にチームプレゼンテーションを行う事が求められました。テーマとしては、Mobility,Health,Food,Work,Tourismの5つが設定され、各テーマごとに調査対象の具体的なサービスを選定(例年と比較し、今年はCovid-19の影響を盛り込んだ中でどのようなイノベーションの機会があるかを議論する事が付記されました)。そこから、サービスデザインの手法とツールを使い、サービスケースの分析、顧客/ユーザー体験のデザイン、ビジネスモデルの構築などを行っていきました。例年であれば、ロンドンの街へ繰り出してユーザーインタビューやフィールドワークを行い、体験的にメソドロジーを学習するのですが、Covid-19の影響でそれができなかったのが非常に残念。基本的にはオンラインワーク中心でアウトプットを構築していきました。

Discourse Project



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(コメント)このプロジェクトでは、まずミシェル・フーコーのDiscourse 理論と分析の基礎を学びます。事例や問いを通じて、私たちを取り巻く思想や言説に関する分析と、テーマの将来予測・シナリオ構想までを深く思考する事が求められます。その後、グループごとに与えられたテーマ(Innovation,Resilience,Freedom,Diversity,Creativity,Equality,Techno-utopianism)をDiscourseとして研究し、グループでのプレゼンテーションと個人でのエッセイ提出が課題として与えられました(エッセイはこの冬休みの宿題)。本プログラムは2回の講義と準備期間2週間(しかも基本全てオンライン)でプレゼンが求められました。哲学的要素を多分に含んだ複雑な内容であり丁寧に時間をかけて学び分野だったのですが、それが叶わず。正直に申し上げて消化不良の感は否めません。自主的に追加論文の読み込みなどを行い、学びを追求したいと思います。

The Serendipity Mindset

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(コメント)学科横断の外部レクチャーとして企画された’The Serendipity Mindset’著者のオンライン講演。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、Dr Christian Busch というNYUとLSEで、パーパス・ドリブン・リーダーシップ、イノベーション、アントレプレナーシップについて教鞭をとる方です。9月に発売された著書のエッセンスをかいつまんだ内容でしたが、いかに予測不可能性をうまく利用し、セレンディピティに遭遇するか、それを育むか。そのマインドセットとスキルセットに関するレクチャーでした。大学院という新しい環境に飛び込んだ人間にとって、いかにその環境を最大活用するかを考える良い機会となりました。


MENTORSHIP PROGRAMME

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(コメント)Class2022より新たに加わったのがこちらのプログラム。豊富な経験・実績を保有するビジネスコンサルタント・イノベーションコンサルタントが学生をメンタリングするプログラム。メンター3名の持つケーパビリティ・産業ネットワークなどを駆使して、新しいプロジェクトの組成を含めたキャリア開発を支援するというものです。このTermでは生徒ひとりあたり1時間の1stセッションが開催され、私はSocial Impact / Social Innovation×Sportsの領域において、大学院でのインプットとアウトプットの接続にどの様な機会があるのか、イノベーションコンサルタントであるLucyよりアドバイスを受けました。次のSpring Term以降も継続的にサポートがあるようなので積極的に活用していきたいと思います。


●何を考え、何を感じたのか?

「異物を飲み込む」
多様性のある環境に自らを放り込み、新たな視点を獲得すること。これは日本・スポーツと言う自分自身の居心地よい環境から離れ、英国・デザインスクールでイノベーションを学ぶことを選択した大きな理由です。コロナ禍で様々な制約がありましたが、できる限り積極的に異物を飲み込むことを考えました。クラスメイトとのグループワークは勿論、例えば、ファッション産業の未来を考えるオンラインセッションに参加したり、新たな感性から興味を持った人物にLinkdinでコンタクトを取ったり。自分が初めての領域、関係ないテーマにも意識的に飛び込むことを心がけました。思考のシャッフル、機会のジャグリングにもつながるこのポイントは今後も継続していきたいと思います。

「知覚の変化」
ロンドンへ渡り大学院で学び始め、多種多様なクラスメイトに出会い、日々目にするもの・触れるものが新たになる中で、知覚の変化を感じるようになりました。それは、ふとした瞬間に湧き上がるアイデアのユニークさであったり、日々の気づきを記録するEvernoteメモのテーマや表現の変化であったり。知覚の変化は、すなわちフィルターの変化であり、新たなフィルターを通じて五感で触れる全てが新たなインスピレーションを生み、アイデアの種になりうる可能性に満ちていることに好奇心が掻き立てられます。

「余白・ゆとりの重要性」
生活や思考に余白を持つことの大切さも感じています。目まぐるしく変化する状況にしなやかさを持って対応するには、余白が必要。具体的には、有事の際にはフレキシブルに行動できるよう、携帯するものはミニマルに大型スーツケース1つ分、住居の契約はマンスリー単位に。物資的な軽さは行動に軽やかさを生み出します。金銭的なゆとりは、判断・行動を大胆にすることへ繋がります。学びと仕事を並行することで生まれたこのゆとりのおかげで、リスクテイク・リスクヘッジ双方へ積極性を生み出してくれています。また、時間の余白・ゆとりは内省のアロケーションを増やし、自分自身のクリエイティビティ(創造性)の活性をいざなってくれます。

この振り返りnoteを書いていたら、年始早々に大学院よりメールが届いていました。来週から始まるSpring Termは、1/25まで完全オンラインで実施するとのこと。2021年も見通しの利かない変化の激しい年になりそうですが、積極的に異物を飲み込みながら、しなやかな姿勢で時代の変化に適応する、そんな1年にしていきたいと思います。

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