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日本サッカー協会で働いた私が、海外デザインスクールでイノベーションを学ぶ理由

ロンドンへ降り立ち1週間が経ちました。欧州でも本格的な第二波の到来が連日ニュースで報じられていますが、ここ英国も同様。新型コロナウイルス感染拡大を受けた警戒レベルが引き上げられ、市中では一定の緊張感ある空気が流れています。奇しくも、このような困難を極める時期に新たなチャレンジへ踏み出すことになりましたが、記憶新たなうちにその想いを綴れればと思います。

1.どこで学ぶのか?(Where)

2020年10月より、英国/ロンドン芸術大学(UAL)のカレッジのひとつ、セントラル・セント・マーチン(CSM)のイノベーションマネジメント修士の門を叩きました。いわゆるデザインスクールの類ですが、モノのデザインではなく、新しい価値を創造する上でのコンセプトのデザインを学ぶコースです。今年度のClass2022は、39名というMBAなどに比べると比較的小さなクラスで、欧州・アジア・中東・アフリカ・オセアニア・中南米の22か国から集まりました。バックグラウンドも非常に多様で、自己紹介を見聞きするだけでもデザイン/クリエイティブ系とビジネス系バックグランドの人材が50:50程度のバランスで構成されています。

デザイン/クリエイティブ系:
プロダクトデザイナー、建築設計、インテリア・空間デザイン、ジュエリデザイナー、バレエ・コンテンポラリーダンサー、シアターファシリテーター&パフォーマーセット、ビジュアルアーティストなど

ビジネス系:
弁護士、マーケター、起業家、ファッションバイヤー、コンテンツエディター、ブランドストラテジスト、広告、心理学、コンサルタントなど

多様性に強いこだわりを持ってデザインされた環境で、2022年の6月までじっくり2年間知の探索に向き合うことになります。


2.なぜ学ぶのか?(Why)

新卒で入社したリクルートでビジネス(経済性)の視点、日本サッカー協会ではソーシャル(社会性)の視点をそれぞれ養い、自分のコアとゆっくりブレンドさせながら「スポーツを通じて(経済性と社会性をハイレベルに両立した)社会価値を創造する」という軸を育むことができました。2006年、学生時代に仲間と設立した、スポーツを通じてタイとカンボジアに存在する地雷を除去するスポーツNPOの立ち上げから数えれば15年という年月が流れてます。勿論、この15年は決して直線的にキャリアを積み上げたわけではなく、数えきれない挫折・失敗、寄り道・回り道の末に今に至ります。まだまだ理想とするところには程遠い状況ですが、経験・実績を積み上げ、一定水準の価値を周囲に提供できる(傍を楽にする)スキルセットを身に纏うことができました。社会人としても家庭人としても、守るべき大切なもの、果たすべき役割も担わせて頂いている。他者から見れば、今チャレンジをする必要性を見出しづらい人間かもしれません。

しかし、ここ2〜3年腹の奥底からわき起こる違和感(もやもや)を覚えるようになりました。今の環境、今の思考の延長線上では自分自身のクリエイティビティに限界が近付いていること、その先にある社会に確かなインパクトを与えられるような新しい価値の創造は難しいだろうと、直感的に感じていたのだと思います(自分自身が描く"ありたい姿"に色気を感じない)。だからこそ「スポーツを通じて社会価値を創造する」という自身のコアをそっとポケットにしまい、スポーツからできるだけ遠く、異なる場所に身を置こうと考えました。自分が知らない、まだ触れたことのない領域にある知を幅広く取り入れることで、新たな知の創造に没頭したい。そこで巡り会ったのがこの大学院・コースでした。

3.何を学ぶのか?(What)

何を学ぶのかの前に少しセントラル・セント・マーチン(CSM)について補足させていただきます 。CSMは世界的に評価の高い芸術・デザインの学校で、中でもファッションデザイナーのジョンガリアーノ・マークジェイコブス・ステラマッカートニーなどを輩出するファッション・アートの分野で著名なカレッジです(なお、日本人ではKESIKI Partnerで元IDEO Tokyo Design Directorの石川俊祐さんが卒業生で有名です)。

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WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE03の記事より拝借)

このCSMに2008年につくられたのが、このイノベーションマネジメント修士という大学院コースです。設置背景を紐解くと、ブレア政権時より始まった英国のクリエイティブ産業政策の大きな潮流における教育・人材育成の戦略拠点に位置づけられています(この辺りも非常に面白いのですが、本稿の主旨とずれるので、またの機会に)。2年間を通じて、イノベーションを導くマインドセットとメソドロジーを実践的に学みます。1年目は、グループワークを中心に、具体的な課題/テーマを通して新しいモノやサービスをつくる基本的なデザインプロセスを身につけていきます。2年目は、生徒各自のリサーチ領域を定め、a.ワークプレースメント,インターンを通じてイノベーションのチャンスを探るか、b.より深いレベルでのリサーチを通じてイノベーションの核心に近づくか、を選択します。内容も場所も、自由に選ぶことができ、過去の卒業生の話を聞くとロンドン・英国に捉われずに世界各国へ散らばるようです。(より詳細を知りたい方はこちらをどうぞ)

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私はこの2年間のコースで、イノベーションに関する知の習得、他領域とスポーツの交差点でイノベーション機会を探索する予定です。スポーツを可能な限り客観的に捉えながら、その対象が持つ本質的な価値をときほぐし、いかにスポーツ以外の領域へアプライするかチャレンジしたいと考えています。

※現時点での仮説:活用アプローチは大きく2つ、課題解決と問題提起
①課題解決:社会・企業・個人の(顕在化した)課題解決への貢献
②問題提起:社会・企業・個人の(潜在的な)問い立てへの貢献

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Sports Xで学んだシステムシンキングをファンダメンタルに置き、論理的思考力と両輪であるデザインシンキングをインストールしながら、そもそもどのようなシステムを構築するのか?という大きな問いを立てる思考力(アートシンキング)を養っていければと考えています。(今後、大学院での学びもnoteへ記していきたいと思います)



4.最後に、2年後の自分へ

新型コロナウイルスの影響を受け、世界は歴史的転換点を迎えています。私たちの生活様式やビジネスのあり方は根本から揺さぶられ、スポーツ界では東京五輪延期が決まり、国際社会に目をうつせば様々な分断や歪みを新型コロナが表出化させています。経済的価値観と非経済的価値観の融合は、今後益々進むと予見されています。この先そう遠くない未来で、成功の基準・重心が「経済的成功」ではなく、「(究極的な)人の幸せ」へとシフトする時、今のシステムやルールは本質的な変化を迫られる。そのような時代において、スポーツや文化はこれまで以上に重要な要素になりうると考えています。その意味では、図らずして、ベストに近いタイミングでこの環境に巡り合えたと感じいています。どこか必然的な香りがして仕方がありません。

正直、このチャレンジの先に何が待ち受けているのか想像できません。逃げ出したくなる苦悩、数えきれない失敗を経験すると思います。2年後にここに記した内容が全くの見当違いであると気づき、もしかしたら(これだけ散々スポーツを語っておきながら)スポーツを手放すことになっているかもしれません。でもそれで良いと思っています。不確実な状態を最大限楽しみながら、待ち受ける日々を抱きしめるように過ごしていきたいな、って思っています。

最後に、このチャレンジに至るまでにアドバイスを頂いた皆さん、支えて頂いた皆さん、時に疑問を呈していただいた皆さんに心より御礼をお伝えしたいと思います。20歳の頃に思い描いていた37歳とは全く異なる人生で、沢山の寄り道・回り道もしましたが、それも味わい深くてまた良し、ですね。

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