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日本の渉外弁護士の英語力は大したことない?

私はこれまで、弁護士として、日系企業の海外投資などのいわゆる渉外案件を中心に経験を積んできました。契約書は英語ですし、交渉相手とのコミュニケーションも英語を使います。

「何それ、よくわかんないけど難しそう。」などと思う人もいるかもしれませんが、必要最低限な英語力に関してはぶっちゃけ大したことありません。

今回は、渉外弁護士にどの程度の英語力が必要なのか、なぜ私がそれを「大したことない」と評価してるのか、少しでもイメージが湧くようにお伝えできたらと思います。

どんな場面で英語を使うの?

渉外案件は、大きく分けて、外資系企業による日本進出をサポートする案件(インバウンド案件)と、日系企業による海外進出をサポートする案件(アウトバウンド案件)とがあります。

ここでいうサポートとは、クライアントのために契約書を作ったり、取引に関連して法的なアドバイスをすることをいいます。

インバウンド案件は、ビジネスの土俵は日本なのですが、外資系企業のクライアントが読めるように英文契約書を使い、クライアントとのコミュニケーションにも英語を使います。

アウトバウンド案件では、インバウンドと同様に英文契約書を使い、交渉相手や、他の国の弁護士(例えば、タイへの投資案件の場合、タイ人弁護士)とのコミュニケーションにも英語を使います。クライアントとのコミュニケーションは日本語です。

これらに加えて、外資系の事務所に所属していれば、所内のコミュニケーションでも英語を使う場面は増えるでしょう。

いずれのやりとりについても、基本的にはメールでのコミュニケーションや、契約書にコメントを書き込むことによってやりとりが進行するので、読み書きが大半を占めることになります。

口頭でのやりとりは多くはないですが、たまにクライアントや相手方と電話でしゃべる場面もあります。

どのくらい英語ができればいいの?

読み書きだけで済むことの一番大きなポイントは、即時にアウトプットしなくてもいいということです。

もし書面を読んでいて分からない単語が出てきたら、辞書を引けばよいですし、単語は何度も見ているうちに覚えてくるので次第に読むスピードが上がります。

契約書の文言づくりは、基本的にテンプレや既往案件の言い回しをコピペして加工するというやり方で対応します。そうこうしているうちに、徐々に自分で使える語彙や言い回しのパターンが増えてきて、作文できる範囲が広くなっていきます。

その他のコミュニケーションは、内容が重要なので、日本語で考えてそれを伝わる英語に置き換えれば差し当たり仕事になります。

私もネイティブのような表現は未だにできませんが、そこに拘る必要はそこまで高くなく、必要な内容を誤解がないように伝えられればビジネスは成立します。なので、日本語で仕事ができる人は、慣れれば英語でも大きな問題なく仕事ができるようになるでしょう。

よって、英語にアレルギーがない人であれば、それ以前に特段の海外経験がなくても、数年も経験を積めば、英語で仕事することがストレスにならない(契約書が英語だろうが日本語だろうがあまり気にならない)レベルまで達するというのが私の感覚です(但し、口頭でのコミュニケーションを除く)。

もともと海外経験がある人や英語が得意な人は、慣れるまでの時間がもっと早かったり、コミュニケーションで活躍の場が増えたりすると思います。

もっとも、これもよく言われる通り、英語はできるに越したことないですが、ビジネスにおいては、あくまでコミュニケーションのツールに過ぎません。英語の習熟度よりも発言の中身が仕事の質を左右するのは誰もが異論を挟まないところと思います。

私の英語力

私は、仕事を始める前は、長期の海外滞在経験は特段なくて、英語は人並みにやっていてアレルギーはないという程度のごく一般的なレベル(当時のTOEICスコア750強)でした。その状態から、渉外業務を始め、そこから約2年後には100ページを超える英文契約にも全くひるまないレベル(当時のTOEICスコア950強)まで達しました(なお、TOEICについてはスコアを上げるための勉強は特段してないので、業務をこなす中で自然と英語力が上がったということかと思います。)。

それ以降も継続して業務上英語は使用していますし、留学準備でTOEFLの勉強もしたので、英語の習熟度は徐々に上がっているのではないかと思います(そう願いたい)。

ただ、それだけ仕事で英語を使っていても、今アメリカで暮らす中で、ネイティブ同士の日常のコミュニケーションをちゃんと聞き取ることはできません。

ファストフード店の店員の発言は聞き取れません(意味は大体分かるのですが)。

ロースクールの講義でも、早口でクセの強い人が喋ると何を言っているのかよくわかりません。

映画は字幕付きでないとよくわかりません。

その程度です。

私の知っている日本で学んだ英語と彼らが喋る時に使う英語って全然違うんですよね。日本語の話し言葉と書き言葉が違うのと同じです。

日常会話力を向上させるには、映画とかドラマを材料に学習した方がいいのかもしれないです。私はあまりしてこなかったのですが。。

日本人の英語力は低い

至るところで耳にする「日本人は英語ができない。」という評価ですが、留学に来てホントにその通りだなと思います。

これは日本人が怠惰なわけでは全くなく(むしろ真面目な方)、言語距離の問題なので、致し方無いことです。

もちろん日本人の間でも英語にかけてきた時間に応じた差はあります。帰国子女でない日本人でも国際ビジネスの世界で活躍している日本人は沢山います。しかし、彼らは決して世界的にみると英語が上手という訳ではありませんし(もちろん日本人の中では極めて上手です)、ゴリゴリのジャパニーズイングリッシュの駐在員のおっさんも多いです。

また、日系企業で英語を使う部署に配属された社員が外国人相手に仕事をするのと、英米企業内で英語ネイティブに囲まれて彼らと対等に仕事をするのとでは、求められる英語力に大きな差があります。

前者は相手がネイティブでないことも多いので、お互いブロークンになりますし、何より、相手方外国人にとって、日本人は大事なビジネスパートナーです。なので、こちらのレベルに合わせてゆっくり話してくれますし、こっちの話も待って聞いてくれます。

後者は、容赦ないスピードで会話が飛び交う環境です。会議でこちらが少しでも言葉に詰まれば、横から発言が割り込んできて、発言の機会をえられないまま、別の議題に移ってしまうという世界です。

独自の基準ですが、国際舞台で仕事をする日本人の間でも、英語のレベルは、大きく3レベルくらいに分けられるように思います。レベルによって、アクセスできる市場が異なります。

①ネイティブレベル
日本語より英語の方が得意又は完全なバイリンガルというレベルです。世界中で活躍する機会があります。

②インターナショナルレベル
国際機関など、様々な国の出身者が存在する職場に就職できるレベルです。ゴリゴリのジャパニーズイングリッシュだけど全く淀みなく会話ができる長期駐在員のおっさんもここです。幼少期の海外経験も数年程度のみではこのレベルまでが限度でしょう。

職種にもよりますが、フロント業務や弁護士など、高いコミュニケーション力が求められるポジションについては、際立った専門性や特殊なコネがない限り、英米企業での現地採用は難しいと思います。

③ジャパニーズビジネスパーソンレベル
日本語の優位性が生かせてやっと土俵に立てる人です。私は仕事で英語を使っていますが、ここです。なお、理系の研究職など、職種によってはこのレベルでも世界で戦える人も多いと思います。

ここで何が言いたいかというと、ビジネスで支障がない英語力と国際マーケットで優位性が持てる英語力とでは、埋めがたい差があるということです。日本法や日本語など他の要素で優位性が生かせる仕事でない限り、英語力の低い日本人が国際マーケットで優位性を持つことは極めて困難でしょう。

で、どうするか?

国際業務に携わりたいのであれば、絶望せず、かつ過剰な期待もせず、地道にやり続けるしかないです。私はそうするつもりです。

世界基準ではどんぐりの背比べでも、日本人基準では、ちゃんとやってる人とそうでない人の差は、それなりにつくと思います。

こればかりは可塑性がないので、子供をバイリンガルにしたいという人の気持ちもまあ分かります(ただ、それはそれで苦労があると思いますし、私はするつもりはないです)。

テクノロジーが進歩して翻訳が容易になると言われて久しいですが、英語を全く学習しなくてよいレベルまで技術が発展するには、まだ当分かかりそうな気がしています。

英語、頑張りましょう。

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