見出し画像

奇跡の草サッカー。

前回の記事にも書いた
1990年イタリアW杯のコスタリカ代表メンバーで
自分がプレーしていたチームの監督 " マウリシオ " 。

彼との出逢いは「草サッカー」でした。

何のあてもなくコスタリカに渡り
自主練とチーム探しを続けて約8ヶ月。
( コスタリカに渡った理由は → こちら )

膝を痛めてしまったことを
現地で知り合った日本人の方に相談すると
ベレンという町に住んでいる
日本人医師のところに連れて行ってくれました。

医師の名は、マサタさん。
優しさと破天荒さが溢れ出した魅力的な人でした。

膝を治療をしてもらった後に
コーヒーを飲みながら
マサタさんのこれまでや自分自身のことなど
いろいろな話しをしていました。

その中で何気なく自分が言った


「 アパートを借りたいと思ってるんですよね 」


に、マサタさんは目をキラキラさせて


「 よし、じゃあ、探しに行こう!」


すぐに車の鍵を手にし
一緒に大きなアメ車に乗り込みました。

窓を全開にして
ベレンの町を走りながらの物件探し。

不動産屋ではなく
「 Se alquila 」(部屋貸します)
という紙が貼られた家との直接交渉で
貼り紙を見つけるとマサタさんはすかさず
そこに書いてある番号に電話をしてくれました。


「 オレの友達が部屋を探してるんだけど、いくら?」


それを15件ほど繰り返した後
条件に合う物件が見つかったので
内見をさせてもらった後すぐに契約
数日後にはマサタさんと同じ
ベレンの住人になったのでした。

そして新しい町に住んだときに必ずするように
コンディション調整と町を知るための町中のランニング。

すると
中心地にある芝生グラウンドで
草サッカーをやっていました。


「 参加させてもらってもいい? 」


「 おう、もちろんだ、入れ、入れ!」


上半身着用チームvs上半身裸チームの対戦。

自分は着用チームに入り
残りの30分くらい一緒にプレーさせてもらいました。

どこの誰かもわからない人間を
当たり前のように参加させてくれる
中南米のオープンなスタンスって大好きです。

終わってからそこを仕切っていた
" ラファ " というおじさんに
次はいつあるのかを聞いてみると
2日後にまたやるということだったので
とりあえず翌日は
そのグラウンドにランニングへ。

少し早めのペースでくるくる走っては
筋トレをして、また、くるくる、くるくる。

終わり間際に、ラファがやって来ました。


「 おう、こんにちは。
 一緒にサッカーするのはわかるけど
 なんで君はランニングをしてるんだい?」


「 じつはこの国でサッカーをしていきたいんだ 」


すると、マサタさんと同じように
ラファも目をキラキラさせて、こんなことを。


「 そうなのか!
 オレは直接的に助けられないけど
 助けられそうな友だちを今度連れてくるよ 」


そして、翌日の草サッカー。

1時間の試合が終わり
帰る準備をしているとラファに呼ばれました。

隣には、ただならぬオーラを醸し出す大柄な人が。


「 はじめまして、マウリシオです。
 この国でサッカーやっていきたいんだって?
 君のプレーを見させてもらってたよ。
 今自分は2部リーグのチームの
 監督をやっているんだけど
 よかったら練習に参加しないか?」


子どものような表情で、とてもとても優しい言葉で。


「 ひとまずうちのチームで練習をして
 コンディションを上げていって
 1部リーグのチームのテストを受けたらどう?
 その紹介ならできるから 」


突然すぎる話しにビックリして
事情を飲み込めていない自分を見て
ラファはさらにビックリすることを。


「 マウリシオは自分の友だちで
 コスタリカ代表としてW杯にも出てるんだよ。
 コスタリカ国民なら誰もが知ってる英雄なんだ 」


このとき自分の頭によぎったのは


「 よっしゃ、ついにチャンスが来た!」


という、とてつもない喜びと


「 これ、騙されてるんじゃないか… 」


という、とてつもない不安。

外国にいるとたまにやってくる、こんな瞬間。
言葉も完全にわからない。その人のこともわからない。
そんな状況での魅力的な誘いを、どっちに捉えるか。

このときの自分は、その誘いに乗りました。

そしてその結果
マウリシオのチームの練習に参加させてもらい
1部リーグのテストも受けさせてもらい
( 実力不足で落ちましたが )
最終的にマウリシオのチームと契約させてもらって
レギュラーとして1シーズン戦うことができて。

誘いに乗って、大正解だったのでした。

でも、喜びと不安の大葛藤のなか
自分はどうして誘いに乗ろうと思えたんだろうか。
どんなところに決断できた理由があったんだろうか。

当時はよくわからなかったけど、今はわかります。

ラファのキラキラした「目」
マウリシオの子どものような「表情」
そこに「嘘がない」と感じられたから。

決して「言葉」にではないんですよね。

顔にはやっぱり、心のそのままが表れるんだよなぁ。

コスタリカでプロ契約をして
プレーできたことはもちろん嬉しかったですが
マサタさん含め、人のためにワクワク行動できる
こんな素敵な人たちに出逢えたこと
こんな人間になりたいっていう指針をもらえたこと
それがコスタリカで得た最高の経験でした。

マウリシオは
引退してからもテレビのCMに出ていたり
町にいるとみんなに声をかけられたり
ラファが言うようにまさに国民的英雄でした。

そんな人が
町のおじさんたちがやってる
草サッカーを観に来て声をかけてくれたって。

当時もビックリしたけど
こうしてあらためて振り返ってみると
とんでもない奇跡が起きたとしか思えないです。

で、今回こうしてマウリシオのことを書く上で
彼の写真を検索して探していたのですが
まさか、まさかな写真が出てきました。



ロナウジーニョと!!!

おそらくコスタリカで行われたチャリティマッチ。
いつも周りを笑顔にさせるマウリシオっぽい素敵な写真だなぁ。

いつかまた笑顔で会いたいです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?