夫婦同姓が引き起こした悲しい出来事

ここ数年ちょろちょろと話題にあがる夫婦別姓。これについて、もう15年も前になるか、ひとつ「やっちまった」という思い出がある。そんなに長い話でもないのでお付き合い願いたい。

中学3年生になった春。受験生になった春。クラス替えがあった春のことだ。クラス替えっていうのは誰が新しいクラスメートになるのか期待と不安が入り交じるイベントだろう。好きなあの子と同じクラスになれないか、小学生のときに僕のことをいじめていたあいつとは絶対に同じクラスになりたくない、今まで話したことないけど頭がいいとかスポーツができるとかで憧れているやつとはどうなるだろう。そんなふうに、クラスメート間の関係に良くも悪くも変化が生まれる。

と同時に、もうひとつの関係に変化が生まれる。それは担任だ。誰が担任になるのだろう、昨年度で異動になったか先生の代わりに誰かが新しく担任になるんだろう、僕のクラスは面白い先生だといいな、怖い先生はやだな。おのおのに色々思うところはあるだろう。僕のクラスはというと、僕の所属していた野球部の顧問が担任だった。怖くはないが特段おもしろいわけでもない(というと結構失礼だが)、無難な担任だった。なんだかんだこの方には卒業後にもちょっとした相談に乗ってもらったりとお世話になるのだが、それは別の話。盛り上がっていたのは、隣のクラスだった。

新学期の朝、隣のクラスの教卓にちょっとした人だかりができていた。人だかりといっても5人やそこらだが、囲んでいたのがいわゆる陽キャで、なにやら盛り上がっていた。野球部の連中だったので僕もちょっと気になって話を聞きに行ってみた。どうも、担任の項目に見知らぬ名前が書かれているらしい。そういえば前年度で異動になった先生がいたから、その代わりということだろう。知らない名前ということは、もしかして異動してきた先生か、あるいは新任の先生だろうか。さまざまな憶測が飛び交っているようだったが、ほんの1時間後くらいにはわかること。ひとしきり盛り上がったあとは、それぞれのグループに散っていった。僕なんぞは隣のクラスの人間なので、話だけ聞いてさっさと離れていった。

そして始業式。結論から言うと、隣のクラスの先生は知っている先生だった。体育の先生らしい先生で、サバサバとした性格の30歳前後の女性で、男子生徒にもガンガン物怖じせずに話す人だった。前年度はどこかのクラスの副担任をしていた記憶があるから、繰り上がった形だ。その先生の名字が変わっていた。仮にA先生としておこう。

これに盛り上がったのが、例によって男子生徒だ。A先生のクラスには野球部やバスケ部を中心に、いわゆるやんちゃ坊主がたくさん集まっていた。おそらくそういうクラスに、物怖じしない体育教師をあてておこうという人事だったのではないかと思う。そんなクラスだったので、始業式が終わり教室へ帰るやいなや、単刀直入にこう聞いたそうだ。

「先生!結婚したの!?」

男子生徒たちはやいのやいのの大盛り上がり。めでたいことを祝う半分、話しやすい先生を茶化す半分という気持ちだったんだと思う。それに対する先生の返答はこうだった。

「離婚だよ」

……。

隣のクラスだった僕は、この話を又聞きで仕入れた。だからそのときのクラスの様子はわからない。冷たい空気が流れたのか、あるいはやんちゃ坊主どもがさらに盛り上がってしまったのか。わからない。

だが、今なら思う。夫婦別姓が普通の世界になれば、こんなに悲しい出来事は起こらなかったかもしれない、と。

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