放課後城探部 二百十一の城
山崎曲輪から大手門方面に私達は散歩気分でゆっくりと歩いていた。
少しずつ陽が傾いてきていてもうすぐ冬だということもあってか十四時であるにも関わらず少し傾斜のある光が木々の間からすり抜けていた。
さっきまで山崎曲輪と山崎御門でお城気分を味わったばっかりだったのに少し歩くとまた山奥の自然公園の中を歩いている気になってお城であるにも関わらずハイキングに来たような気分になってくる。
ぽーっと土塁の木々の隙間から漏れる太陽の光を楽しみながら歩いていると訪ちゃんが突然
「これか!」
と少しテンション高めに声を上げた。
訪ちゃんの声に呼応するように天護先生も
「ようやく見れたわね。」
と待ち遠しい昔の仲間に出会ったような声でそう言った。
私は訪ちゃんの声に驚いてビクッと驚いて周りをキョロキョロして警戒しながら周囲を見渡すと先生と訪ちゃんは山から突き出した石垣を見上げていた。
あゆみ先輩はキョロキョロと何事かわかっていない私の肩をぽんと叩いて
「びっくりしたわね。」
と優しく声をかけてくれた。
「あっ、いえすみません。」
先輩の言葉に少し落ち着きを取り戻せたような気がしていると先輩が
「あれが登り石垣よ。」
と言って山上に伸びる長い石垣を指差してそう教えてくれた。
麓に突き出した石垣が山を分断するように地面の形に沿って山上に登っていく姿は中々に見事だ。
傾斜した太陽の光が石垣をライトアップして更に雰囲気を高めている。
「これが登り石垣というものなのですねえ。」
「そう、下から山を登っていくから登り石垣というのよ。」
「なるほどぉ」
先輩の説明に私は突き出した石垣をなぞるように上まで見上げる。
彦根城の防御はとにかく隙きのない素晴らしいまでに徹底した作りだけど登り石垣はなぜこのように作られたのかあまりピンとこない、むしろこの石垣に登って山上へ進めばお城まで導くことになるのではないかとさえ思えた。
「これを見て。」
ボケーッと登り石垣を見上げている私に先輩はスマホの画面を差し出すとそこには彦根城の古い地図が写し出されていた。
「たまたま検索したらでてきたの。」
先輩はそう言ってニコッと微笑むとスマホの画面を
「彦根城の登り石垣は全部で5箇所存在していて、私達が見ている石垣はここの石垣よ。」
と言って琵琶湖みたいな形をした彦根城の一箇所を指差した。
「登り石垣は麓から少しずつ登くと・・・ほら、行きつく先は櫓の真下になっているでしょ?木々が邪魔をしてわからないようになっているけど、攻めやすそうに見える登り石垣は実は攻め手を誘導する罠になっているの。」
確かに全ての登り石垣の行く先には櫓が待ち構えている。
仮に石垣に登らずに石垣に沿って山上に登っていっても行きつく先は西の丸の大堀切になっていてあの高石垣を梯子もなしに登れる人間はいないだろうから結局攻め手はこの石垣を頼りに攻め上っても疲れる上に激しい攻撃にさらされるのがオチなのだ。
「これは恐ろしい罠ですね。」
「彦根城の登り石垣は他城郭の登り石垣と比べると少し特殊な作りになっていてどちらかと言えば中世山城の竪堀に相当する作りとなっているのよ。」
「竪堀・・・ですか。」
「そうよ、竪堀も山上に向かって山肌に溝を掘ることで攻めやすいように敵を誘導して竪堀に誘導された敵を集中的に攻撃するようになっているわ。彦根城は溝を石垣にすることでより誘導地点を明確にしたのよ。凹凸激しい山自然の山を登るよりもきれいに作られた石垣の上を歩いたほうが登りやすいわ。」
「だから、登り石垣の高さってそれほど高く作っていないんですね。」
私はそう言って頑張れば私でも登れそうなくらいの高さの登り石垣を見つめる。
「むしろ登ってきてほしいからという事よ。」
ふとするとなんの意味もないようにそこに作られた登り石垣も実際には深い意味を込めて作られたのだなあ。
私はただただお城を作るための努力をしてきた先人たちの知恵に感心するばかりだった。
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