放課後城探部 二百八の城

西の丸三重櫓の勇壮さのおかげでしょんぼりと枝のように折れていた天護先生が元気を取り戻してくれた。

力なく折れたまま先生を引きずるのは大変だから先生の元気を取り戻してくれた西の丸三重櫓の表の顔に密かに感謝した。

私達が立つ西の丸の堀切の前に申し訳程度に置かれた出曲輪から見上げる西の丸三重櫓は天秤櫓みたいに曲輪の正面に構えているわけではなく曲輪の北側の三重櫓に多聞櫓をL字に接続して西の丸を防御している。

「天秤櫓は門として機能していたのに西の丸三重櫓は落とし橋から少しずれて配置されているんですね。」

「天秤櫓は琵琶湖の防御も兼ねていたから琵琶湖の監視をしつつ出曲輪の防御をするためにはこう言う形にするのが理想形だったのよ。」

あゆみ先輩がそう教えてくれる。

「もちろん落とし橋に門がなかったわけじゃないの。だけど落とし橋は出曲輪の防衛が難しくなったら最終手段として天秤櫓の廊下橋のように切り落として出曲輪と完全に遮断されるように作られているの。」

「だから落とし橋って・・・」

私はさっきまでギシギシと私を怖がらせた見て納得する。

「そう、落とし橋、彦根城の防御力は二つの橋を切り落として山上部分だけで独立出来るところにあるのよ。特に搦手に当たる西の丸の堀切は大手口に当たる天秤櫓と比べるとより深く作られているわ。天守への通用口として利用される鐘の丸の大堀切と比べるとより高い防御力を与えられていたのよ。」

私は訪ちゃんと二人で堀切を覗き込む、さっき落とし橋で覗いたのと比べると足場がしっかりとしているため幾分か恐怖感は薄れているけど改めて覗き込むとやっぱり少し怖いくらいの高さだった。

「これは確かに簡単じゃないな・・・」

訪ちゃんは深い堀を覗き込むとそう言った。

「そう、鐘の丸の大堀切のほうが深度が浅いの。西の丸はその分天秤櫓ほど手をかけずに守れるという事になるわね。」

確かにこれだけ深い堀切が目の前に横たわっているし、目の前には強力な櫓が置かれているため橋を切り落とされると行く先のない攻め手は同仕様も無くなりそうだ。

下の堀切から梯子をかけて攻撃しようにも堀切へのアクセス方法がないため天秤櫓よりも攻略が難しくなるのだ。

「同じ堀切でも鐘の丸の大堀切は通路として使用されている以上橋を遮断しても石垣から櫓への攻撃は可能だわ。西の丸はそれが容易ではない分、天秤櫓よりもより防御力が高かったのよ。」

すると先輩の説明に元気を取り戻した先生が触発されたのか出曲輪の石段付近から私達に手を振ると

「ここを見てみなさい。」

と少し大きな声で私達にそう言った。

「なんやなんや?」

と訪ちゃんを先頭に私達は先生に走り寄ると先生は石段を指差して

「ほら、この石段直線状で長いでしょ。」

下の方からまっすぐ出曲輪の側面を走る長い石段は表門山道と同じように少し登りづらそうに作られていて攻略するには辛そうだった。

先生は石段を背に背を向けると目の前には大きな三重櫓が真っ直ぐ伸びる出曲輪の石段を睨みつけていた。

後ろから見たらさほど大きくないように感じた三重櫓だったけど石段から見るとこんなにも大きく感じるんだ・・・

「この三重櫓と長い石段、側面を守る出曲輪、たったこれだけで搦手の防御はほとんど完成されていたのよ。」

石段を登っても目の前から鉄砲を撃たれることになる。

更に側面からも激しい攻撃にさらされるのだ。

これが攻め手側にどれだけの負担をかけるかは想像すれば簡単に分かることだ。

「出曲輪の石段の奥が途中で折れ曲がっているでしょ。折れ曲がりに位置する石垣には多聞櫓が置かれていたし、私達の立つ石段には三重櫓の防御を阻害しないように櫓門が置かれていたわ。搦手は天秤櫓と鐘の丸の防御以上に攻め手に地獄を与えるはずよ。」

先生は美しい琵琶湖の景色を背景にとんでもなく恐ろしいことを口走った。

確かに彦根城を攻撃するにしてもこの搦手を攻撃する攻め手はとんでもない困難が要求されるだろう。

むしろ攻撃する方は西の丸を避けて天秤櫓と鐘の丸の攻略だけに集中したほうが良いのかも知れない。

どうやら彦根城の攻略は簡単ではないみたいだ。

私は想像するとブルッと寒気がしたような気がした。

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