放課後城探部 二百十九の城

図書室で少し巴先輩と話したり本を読んだりと時間を過ごしているとガラリと図書室の扉が開いた。

あゆみ先輩が天護先生と連れ立ってやってきたのだ。

カウンターで作業していた富田さんはパッと明るい顔になって急に立ち上がって先輩を歓迎しようとしていたが後ろから先生が入ってきたことに気づくとすぐに澄ました顔に戻ってスッと席に座った。

富田さんも流石に先生がいると態度をわきまえるという事なのだろう。

一方巴先輩は自然体に

「あー、あゆちゃん先生とあまちゃん先生やぁ。いらっしゃーい。」

と手を振っていた。

しかし私達の方から職員室に行く予定だったのに先生も一緒に待ち合わせ場所に来るなんてどういうことなのだろうか?

私がそんな事を考えていると二人は私達が座っているテーブルの席に腰を掛けた。

「おまたせしました。」

「待たせたわね。」

二人が私達にそう言った。

「そんな待ってへんで。」

訪ちゃんは素早く反応すると

「それよりもなんで先生がここに・・・?」

と私の疑問を代弁してくれるかのように先生に質問する。

「ああ、あゆみと同じクラスの女の子にに放課後教えてほしいことがあると呼び出されたからそのままあゆみには待ってもらって二人で来たのよ。」

なるほど、先生は授業後もあっちに行ったりこっちに行ったり調べ物したりテスト作ったりと色々大変なのだなあ。

「わざわざ放課後にまで質問って熱心やなあ。」

訪ちゃんが何気なくそう言うと私は頭にピコリと光るものを感じた。

「その人、先生にわざわざ質問するくらい歴史に興味ある人なんですか?」

「・・・?そうねえ、ある一時代にかけてはものすごく熱心ね。」

先生は怪訝な顔をしながらそう答えると今度は先輩が

「三好さんと言う子なのだけど、ものすごく戦国時代が好きみたいだわ。」

そうにこやかに答えてくれた。

先生は少し考えてから

「城下さん、もしかして三好さんを城探部に入れようなんて提案するんじゃないでしょうね?」

と苦虫を噛み潰したような顔でそう言うと先輩も難しそうな顔をして首を横に振ってから

「三好さんはダメよ。」

とものすごく悲しそうな顔をした。

「えっ、でも戦国時代が好きだったらきっとお城が好きなはずですよね?時代もバッチリなのにどうして?」

不思議に思って質問すると訪ちゃんが

「あっ、その人ってもしかして?」

となにか思い出したかのようにそう言って

「2年の始業式にあゆみ姉が泣きそうな顔をしてある人に突然嫌われたかもしれんってうちに相談してきたあの・・・」

と先輩にそう聞くと先輩は小さくコクンと頷いた。

「三好さんはなぜだかあゆみに対して異常にライバル視してるのよね。私もたまに聞くんだけど三好さんは時々私の方が絶対に歴史に詳しいって言いふらしてるのよ。」

先生はそう言って困った顔をした。

「私はどっちが詳しいかなんてどうでもいいんだけど・・・それよりも三好さんと仲良く出来ないのが心苦しいわ・・・」

先輩も三好先輩と仲良く出来ないことをとても悲しんでいるようだった。

人には好き嫌いがあるものだから仕方のないことだとはいえ、まさか誰にでも人当たりが悪くなさそうな先輩が敵視されるような事があるなんて思いもしなかった。

性格が全く正反対な気がする千穂ちゃん先輩とですら仲が良さそうな話を聞くのにその三好先輩というのはライバル視しているというのだから。

「それにしてもなんで嫌われてるんや?」

「うーん、よくわからないの、三好さんのことは1年の時から歴史に詳しい子がいるよって聞いてて、私は2年で同じクラスになれたのが嬉しかったのだけれど、始業式の日にお友達になろうと思って声をかけたら、お話しているうちに少しずつ機嫌が悪くなってきて、それ以来・・・」

先輩は当時のことを思い出したのかなんだか泣きそうな顔をしている。

「それにしても話ししてるだけで不機嫌になるってよっぽど馬が合わんかったんやなあ・・・」

「そうなのかしら・・・悲しいわね。」

二人の性格がもしも合っていればもしかしたらこの場に三好先輩もいたと言う未来もあったかも知れない。

そう考えると人の気持ちとは少しすれ違うだけですべてを変えてしまう力があるんだなあととても深く考えさせられるような気がした。

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