放課後城探部 二百十の城

出曲輪から琵琶湖を横目に石段を下るとさっきまで太陽に照らされて明るかった視界が突然鬱蒼とした木に囲まれて雰囲気が一転する。

彦根城の下層部は木々に囲まれて林道まるで林道の中を歩いている気分にさせてくれた。

石段を降りた先はお城の外周部にあたって左手に行けば大手門方面、右手に行けば黒門方面になる。

私達は一旦は大手門方面を目指して歩きだした。

「さっきまでと違って急に木に囲まれて暗くなった気がするわ。」

急な周りの雰囲気の変化に訪ちゃんが戸惑うと天護先生が

「あんた怖いの?」

とからかうように言うと訪ちゃんは

「ちゃうわ!なんでなんもない所で怖がらなあかんのや。雰囲気が変わってびっくりするって言いたかっただけや。」

と少し頬を膨らませた。

「まあどうでもいいけど、山上の曲輪と下層の曲輪が雰囲気が全く変わるのは近世山城にはよくあるわね。」

先生は頬を膨らませた訪ちゃんをなだめるでもなくそう言った。

「なんだかんだ言いながら山ですから人の手で自然の木を全て排除するなんて出来ませんからね。それに今は漆喰の壁がないからお城の秘匿性を高めるために木で覆うのは自然かもしれません。」

あゆみ先輩が先生の言葉にそう答えた。

「そう言えば和歌山城も主郭の内堀付近は石垣で視界を覆って下からは見えないようにして、天守はこれでもかってくらいに見せつけていましたね。」

ぼんやりと和歌山城を思い出しながら言うと先輩は大きく頷くと

「そう、土台を一段高くして見えないようにしたり石垣で覆ったりして外側から見えないようにする工夫がなされていたわ。明石城も今は木で覆われているけど土塁で一段くして壁で周囲を覆って内部を見えないようにしていたわ。お城は権威でありながら防衛の基地でもあるから、出来る限り外部の人に内側を知られないように見せつつも隠す。そう言う工夫がされていたのよ。」

お城を外から見る人に畏怖を与えるために外側から強く見せつつ内側を知られないように隠す為の努力がなされていたのだ。

彦根城も土塁で一段高くして視線を遮って更に漆喰塀がお城を隠していた。

今は漆喰塀が置かれていたところは木が生い茂っていて漆喰塀の代わりにお城の秘匿性をより高めているため下層はまるで林道を歩いているように感じるのだ

登り石垣を目指して歩いていると途中お城の北側の先端に当たる部分に石垣が見えてくる。

「山崎曲輪よ。この曲輪がお城の最北端に当たる場所になるわ。」

先生がそう教えてくれた山崎曲輪には石垣と石段が少し残っていて更に道なりに行くと少し低い位置に冠木門が残されていた。

「山崎曲輪は松原内湖に入り込んだ重要な曲輪で、ここを湖上の三叉路にして琵琶湖から彦根城の埋門と楽々園前の船着き場に船を分けていたの。更にそこの門は山崎御門と言って内堀にかかった橋で中堀の二の丸と繋いでいたのよ。」

「搦手の門と直通の曲輪って相当重要視されてたんやな。」

確かに残された冠木門と山崎曲輪は殆どお隣さんに作られていて門が破られれば次に犠牲になるのは山崎曲輪になるのだ。

「琵琶湖の守りに搦手の守り彦根城にとってとても大事な曲輪だったんですね。」

私の言葉に先輩が大きく頷くと

「とても大事だから彦根城の実質的な築城主でもあった井伊家の家老木俣守勝に山崎曲輪自体を与えて御殿を築かせて更に西の丸三重櫓に常番させて湖岸の監視に当たらせたのよ。」

と教えてくれた。

彦根城の重要な曲輪を与えられた上に西の丸三重櫓という天秤櫓の次に重要な西の丸三重櫓の警備を任せられて彦根城にはなくてはならない存在だった木俣さんはまるで山崎曲輪のように井伊家にとって縁の下の力持ちだったのだ。

上層と比べて人が殆どいないひっそりとした曲輪を眺めて私はそんな事をおもうのだ・・・

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