放課後城探部 百十一の城
和歌山城の素晴らしい石垣のアンサンブルに圧倒されながら私達は南の丸にある岡口門に足を向ける。
南の丸と先程いた御蔵の丸を繋ぐ中門跡を越えると遠くに少し古風な造りの櫓門が私達の目の前に現れる。
私達の目の前でひっそりと佇む櫓門、あれが岡口門だ。
岡口門は大粒の石を打ち込んで加工して積み上げた石垣に大きな梁を横たわらせて建っていた。
梁の上部の蔵のような白い漆喰壁には古びた引き戸が取り付けられていてそこから建物内部に入れるようになっていた。
恐らく石垣には櫓が副えつけられていたであろうことは容易に想像ができる。
櫓と櫓門は隣接していて連絡が取れるようになっていたのだ。
「和歌山城の現存の門ではこの岡口門だけが櫓門なの。岡口門の先の堀端通り付近には昔の絵図だと櫓門が配置されていて、2つの櫓門がお城の搦手を守っていたことになるわね。」
あゆみ先輩はそう言って岡口門を紹介しながらゆっくりと門の下に近づいていく。
私達もそれに従った。
岡口門は遠くから見ると少しコンパクトなように感じたがそれはもしかしたら隣接する櫓が存在しないからかもしれない。
本来は一緒に仕事をする筈の櫓が隣にいないのだから門だけではコンパクトに見えるのは当然だと思った。
だけどなんだかそう言うものとは違って岡口門になんだか寂しいものを感じたのだ。
「櫓があればもっと見栄えしたかもな。」
訪ちゃんも概ね同じ感想なようだった。
「そうかしら。素晴らしい建物よ。特に櫓に掛かっているあの野太い梁、そしてそれを支える4つの柱。格好いいじゃない。」
先輩は岡口門を褒め称える。
岡口門は和歌山城にある現存のものでは一番古いものだ。
和歌山城は現存の施設が多くはない。
そのため岡口門は和歌山城の歴史の生き証人なのだ。
「桑山重晴が城代だった時代は大手門で、和歌山城に用向きの武士は皆ここからお城に入っていった。浅野幸長が一の門を大手門にするために岡口門を搦手の門としたのだけど。岡口門の重要性は変わらなかったわ。」
先輩は言いながら岡口門をくぐる。
岡口門の前に内堀と大きな道路が横たわっていた。
三年坂通りだ。
大手門一の門の前に横たわるけやき大通りが現在のメイン通りだとすると三年坂は裏の通りだ。
岡口門はいつも静かにその裏の通りを守ってきたのだ。
「岡口門は現在では唯一の櫓門だけど、岡口門から現在の堀端通りに少し入ったところにはもう一つ櫓門が置かれていて、街とお城を仕切っていた。現在は跡形もないけどね。岡口門は和歌山城の主要区画の搦手の門だからなんとか生き残ることが出来たわ。」
先輩はそう言って岡口門に振り返った。
現在の主要な街の中にも多くのお城の施設が残されていたが現在は跡形もない。
お城の施設は都市開発によって消え去る運命のあるのだ。
岡口門は当時の大手門として、搦手の重要な門として現在も生き残ることが出来た。
でも同じ生き残るにしても堀端通りの櫓門も残っていれば岡口門も兄弟がいて寂しくなかったのかもしれないな。
そうか、さっき私が岡口門を見た時に感じた寂しそうな感じは兄弟の門がいないからなのかもしれないな。
私は妙なことを考えると1人でクスリと笑ってしまった。
そんな私を見て訪ちゃんは不思議そうな顔をした。
「何笑ってんのんや。」
私はまた珍妙な顔をしてニヤニヤしてしまったのかと恥じる。
「いろいろ考え事してしまって。」
私がそう言うと訪ちゃんは
「また妄想してたんか・・・さぐみんはほんま想像力が豊かやなあ。」
と呆れ顔で笑ってくれた。
まさか私が門の気持ちになって寂しい思いを想像していたと門を擬人化してしまっていたとは思いはすまい。
お城だけのことではないが、古いものが現在に生き残るのはそう簡単なことではないのだ。
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