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「色の大事典」がとてもイイ!

先日発売された井上のきあさんの著作「色の大事典 基礎知識と配色・カラーチャート・伝統色・慣用色名 DIGITAL COLORS for DESIGN」(2021/09/17)がとてもよかったので、ご紹介してみようと思います。

私のデザインスキルは独学。可能な方法はできるだけ利用して学んできたわけですが、中でも良い本から学ぶというのは最もコスパ良くて有益な方法。おかげで良い本を見極める力は磨かれてきているかなと思っています。

イラストレーションやデザインに向き合うにあたって、色というのは本当に重要な要素です。…ということは理解しつつも、実はあんまりわからないままふんわりした勉強程度でお茶を濁してきていました。絵の具などの物理的な道具で描くなら、ちょっとしたコツさえ押さえれば、あまり考えずに描いていてもまあそんなもんか(良くはないけど…)と思える程度に収めることはできていたのです。

ところが、デジタルで色を扱い始めると…なんかおかしい…。まあいいか、とさえ思えない配色迷子になることが格段に増えました。さすがにこれはまずい、と思い、配色系の本をあさって勉強したり、借り物のパレットでその場を収めたりなどしていますが、いまひとつ自分のものにできている気がしない。そんなもやもやがずっと続いていました。

そんな中、流れてきたこのツイート。

おお。これは…。これは良いのでは!?

とはいえ既に配色の教科書的な本はいくつか鎮座しており、さらに同じような本を増やしていいものか…という迷いも、一瞬…。

しかしこんな記事を書いていることからもわかるように、購入して大正解! です。「大事典」の名にふさわしい網羅性とAdobeソフトにどっぷりお世話になっている現代の制作環境での実用性を兼ね備えた良書! 「あらゆるデザイン制作に役立つ色彩のすべて。」という帯のコピーはまさにその通り。「色彩のすべて。」とか、なかなか言い切れるもんじゃないです。すごい。

最近、紙の本について、もたもたしてるとすぐなくなる現象をよく見かけるので必要な人はほんとすぐ注文していいくらいなんですが、参考までに私が既にソレ的な本を持っていながらも買ってよかったポイントをご紹介したいと思います。

1. カッコイイ

まずカッコイイです。発色重視の本なので紙は白くてツルピカ。そこに整然と配置された色鮮やかな色面ときりりと引き締める黒の本文。とはいえシャープでありながらフォントや線の処理がわずかにやわらかみを帯びているため学術書然としたつーんという冷たさがなくて、…なんというか……好き…。

各種理論の説明部分も図解を1ページにどーんとひとつ配置してあるので、ていねいに見ていけます(難しそうな図が小さく並んでるとついつい飛ばしてしまって頭に入ってこないのですよね…)。この本について、ながめてるだけでも楽しい! みたいなツイートをよく見かけましたが、このような美しいデザインあってこそだろうなあ、と思いました。

2. わかりやすい

色彩に関する主な理論の解説がとても簡潔で分かりやすかったです。こういう解説って以前にも目にしているはずなんですが、なにがわかりやすかったんだろう? と考えてみたら、複数の説を並列に比較して見せてくれているからなんだろうなと思いました。

この理論は、こうです。という説明はよく見るのですが、この理論とこの理論はここに違いがあります、という説明をしてもらえたのは初めてのような気がします(私がちゃんと読んでなかった可能性もあるんですが…読みやすかったのも含めて、ちゃんと受け取れたのは初めてです)。

そしてなにより私にとっての最大の学びは「純色」「清色」「濁色」の区別でした! 「濁色」の概念がはっきりしたことで、長年もやもやしていた「彩度」がしっくりこない問題が解決しました。グラフィックソフトでの色の見方の解説が秀逸だったことと、実際に印刷されている色が目に見えてわかりやすかったこと(これがけっこう大事だったかも)でようやく腹落ちしました。長い旅だった…。私にとってはこの1点だけでもこの本を買う価値があったくらいです! ほんとうに感謝です!

3. 使いやすい

2.とも関連するのですが、理論的な話と、それを実践で利用する際のツールの使い方とを直結して説明してくれているのが本当に神です。「かゆいところに手が届く」解説です。この点については制作ツールを使っている人以外はあまり切実ではないのかもしれませんが、私にとっては「この秘伝の書を胸にまた歩いて行けそう」という気持ちです。心強い…。

4. 資料的価値の高さ

カラーチャートのきめ細やかさがハンパないです。印刷の色が本当にわかりやすい。K:100%とリッチブラックの色の違いがはっきりわかるのはもちろん、4色ベタなどという、個人ではリアルに出会う機会がない色も(そしてまたその色の違いもわかってしまう…!)。カラーチャートの色面も大きくとってあってわかりやすいし配置も美しいです。カバーには切り取って使えるフレームもついていて、いたれりつくせり。印刷見本としてだけでも充分に価値があります。

5. おもしろい

この本で特徴的なのはことごとくていねいに実例サンプルがついていること。錯視の実例にはいちいち、わ、ほんとだぁ…という驚きがあって単純におもしろいです。

それぞれの伝統色や慣用色名の説明では植物や染色などの由来があって、こちらは読み物的な深掘りができる興味深さ。実務的に勉強になることと通じることではあるのですが、色の歴史や背景について思いを馳せられるような文化的深さがじんわり楽しいです。


などなど、私的にヒットしたポイントを並べてきましたが、基本的に「大事典」の名に違わず、実務で色を扱う際に必要なことはひととおり解説されている安心感のある一冊です。普遍的な内容がほとんどなので長持ちする本だと思います。

それと、このこだわったつくりだけに、充実の内容を執筆・デザインされた著者の井上のきあさんはもちろんのこと、印刷会社や出版社などのたくさんの方々が、本当にていねいに仕事をされたんだろうなぁ…と思いめぐらせてしまうんですよね。

そんなことも含めて、とても幸せを感じるのと同時にしゃきっとカツ入れられたような気持ちになった本です。(みんないい仕事してるし! 私もがんばらないと! みたいな)

以上、参考になりましたら幸いです!

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