【短編】「料理と絵画」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 085
うさぎは料理が得意だった。
旬の野菜を新鮮なミルクでつくったチーズと一緒にオーブンで焼くグラタンをリスやキツツキたち、山の仲間に振る舞うと、みな喜んでくれた。
かめは絵を描くのが得意だった。
素早く対象物の輪郭を把握し、正確なデッサンを完成させ、そこから自在にカタチを抽象化し絵の具を丁寧に置いてゆく作業が彼の心を落ち着けた。何度か地域のコンクールに入賞もした。
そんな二人は勝負をしていた。徒競走だ。山の頂上まで一秒でも早く着いた方が勝ちだった。
勝負にはルールがある。ルールに対して必要な力と戦略を用意し、着実に実行した方が勝つ。時に運も作用する。だが運は努力の量に比例して作用する。
料理で勝負をしたらウサギが勝っただろう。絵で勝負したらかめが勝ったことは明白だ。
ときに人生を左右する勝負のルールは天と歴史が決定する。
人のレースにおけるルールは、はたしてどうであろうか。
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