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アラフィフ育児 ケース7「話せない」 〜リモート会議の邪魔をする天才たちを前に完敗した話〜


このご時世、私なんぞでも、リモート会議をする機会が増えた。

子育てしながらのリモート会議の大変さは、言わずもがな。
まあー、ホント、大変。ハプニングの連続。

そもそも場所がない。狭い我が家に書斎なんてない。

リビングに面した、納戸に毛が生えたような狭い空間が、私の部屋なのだ。リビングで騒ぐムスメたちの声が、合板を二枚合わせたような引き戸だけでは防ぎきれるわけがない。

なので、脱衣所でやったりする。
洗濯機の上にパソコン置くと高さがちょうどいいのだが、冷房がないから夏場なんて汗だくだ。
しかも洗濯中だったりすると、ガゴガゴガゴと、音がうるさすぎるし、PCが揺れてムリ。参加者全員が酔うと思う。

な・の・で、引っ越した。
こんどの家には仕事部屋がある。なにがいいって、『ドア』ってとこだ。引き戸じゃないだけでなんだかプライベート感が増す(オレだけ?)。ネットも強力なのを引いた。リモート会議をするにも申し分ない環境だ。
うん、完璧。

の、はず、だった。
だが現実は、大豪邸でもなし、木造のひとつ屋根の下になのだ、そりゃ、声は漏れるし、いろいろと邪魔は入る。

リモート会議中、脚本について説明している大事な大事な時に、遠くでムスメが叫ぶ声がする。この世の終わりかと思うような声で泣いている。

だ、騙されるものかっ!

以前も「大丈夫!?」と駆けつけたら、
「おねえちゃんがパックン(自分の事をこう呼ぶ)のピンクのコップ、かってにつかった!」
ただそれだけだった。
「そっかあ、それはダメだねえ、つかいたかったら、かしてね、っていわないとね」とムスメの目線までしゃがんでなだめ、説得する……そんな寛大な心は持っていないし、そこは自分たちで解決してくれ、なのである。(いや、普段はやってます。あくまでも会議中の話です)

このあいだも、野々村元議員ばりに大泣きしていたので、「どうしたっ!」と駆けつけたら、自分で開いたドアに足を挟んだらしい。

うんうん、わかるう〜。確かにそれは痛い〜。

だけど毎回、「いたいのいたいのとんでけ〜。いたいのかいじゅうのところにとんでけ〜!」と、ノンタンシステムで慰めてはいられないのである。そこはなんとか挟まないでくれ、なのである。

最近では泣き叫ぶ声ごときでは動揺せずにリモート会議ができるようになったのだが、会議の妨害活動(おおげさ)はこれだけではない。

荷物が届いてインターホンのチャイムが鳴る。
ムスメたちが争うようにしてボタンを押して、
「オキハイデオネマイシマーッス!」「アーッス!」
と体育会系な挨拶で応対をし、通話ボタンを速攻で切るのだ。

オイオイオイオイーッ!

今のホントに宅配の方? 
しかも、オートロックの解錠ボタンを押してないじゃん!
通話切ってるから、向こうからもう一回、インターホン押していただかないと、門前払いになってるじゃん!

なので、「ちょっとすみません……」と会議を退席するハメになるのだ。

いや、妻はいるの。
だけど、妻がたまたまトイレの時とかにいらっしゃるの、来訪者様。
これ、宅配あるある。トイレの時に来がち。

トイレと言えば、(トイレと言えば、で話題を変えられてもねえ)先日なんて会議中に、上の五歳のムスメが部屋に入ってきて(鍵がかからないドアなので開け放題なの。イエーイ!)

「パパ! パックンが、おまるつかわないでウンチできたよ!

と報告してくるのだ。

「うんうん、そっかー、すごいね、がんばったねえ」
なんて返せないのだ。そんな雰囲気ではないのだ。

会議参加中の皆様が、「おいおいマジかよ!」「グッジョブだな!」「コングラッチュレーション!」と返してくれる、そんなアメリカンなシチュエーションは日本では、まあ、ありえない。(いや、アメリカでもどうかな?)

皆、真顔でスルーなのである。
「聞かなかった事にしておくが吉」なのか、無言だ。

ちなみに私もそんな時、ムスメをスルーする。
何故なら今まさに、私の脚本が通るか通らないかの瀬戸際なのだから。
今、このとき、私のプレゼン次第で、私の脚本で映画が作られるかもしれないのだから。

ムスメたちよ。
私はいつでも君たちの味方だ。
どんな事があっても、なにがあっても、君たちを助ける。絶対に。
だけどごめん、今はムリ。
今だけは、ほんとごめん。
どうしたってムリ。ムリなのだ。
だから、私は君たちの言葉を完全にスルーして仕事を続けるのさ。


いや、わかります! てぃ先生(超リスペクト)、おっしゃる通りでございます!

尾木ママ(いつも助けられております!)、これはやってはダメですよね! 重々承知です!

そうなんです、すべての打ち合わせより大事なことは、ムスメたちとの対話、ですよね。

でも、今はやっぱりムリ!
後でたっぷり「凄いじゃん! ちゃんとトイレでうんちできたじゃん! すっげー! 尊敬!」って褒めちぎってあげるから、今は、今だけは、リモートで会議させて!

てぃ先生と尾木ママのおふたりが、この事に関して、実際に反対のコメントをおっしゃったワケではございませんので、あしからずご了承ください。

先日、多忙なプロデューサーから電話をいただき、私は温めまくっていたドラマ企画の話を、いかに面白く、いかに魅力的で、いかにヒットするかを、短く簡潔に話さなくてはならなかった。
かなりお忙しい方だから。

そんな時に……。

ダンダンダンダン!とドアをノックする音が。そして、
「ごはんできたよー!」「できたよー!」
と言うムスメたちの声が。

私はプロデューサーに熱く企画内容を語りながら、部屋のドアを開けて、今まで培った演技力とジェスチャー力を駆使して、
『うん、このでんわがおわったら、すぐにいくね』
とムスメたちにつたえるのだが、これがま〜、伝わらない。

プレゼンの片手間で伝えるジェスチャーは無力です。
もしくは私に演技力がないのです(悲しいわ!)。

しかたなく私は顔の前にピンと立てた手を持って行って『ごめんごめん』とドアを締める。

するとムスメたちが、
ダンダンダンダン! ダンダンダダンダン! ダダダンダダダン! 
カッ、カッ!
とドアを乱れ打つのである。

カッ、カッ!は、さすがに嘘だろとお思いだろうが、爪を立ててドアを叩くとこの音が出るのである。

太鼓の達人かよ!

この音ゲー攻撃も、もちろんスルーだ。
しかたない。今、プレゼンは佳境なのだから。

よし、ここは我慢くらべだ!

私は後ろ手でドアを押さえる。(鍵がないから押さえるしかない)
しばらくしてムスメたちは、ドアを叩くのをやめて、リビングへ戻っていった。

勝った! 我慢くらべに勝った!

だけど、ここで油断してはならない。私はそのままドアを押さえ続けた。
すると……

ニョロニョロニョロ〜!

なんとドアの隙間から紙が! 
しかもそこにはムスメの、まだまだ拙い字で、

『ごはん でちたす』


と書かれているのだ。

こんなん笑うわ!
いい、いいよ、この企画、通らなくてもいいよ、降参! 

私は、後日企画書にまとめて送る事をプロデューサーに伝えて、電話を切った。

プレゼンはイマイチで終わったが、その日の食卓は、とても愉快な食卓になったので、私は満足なのです。

早く「き」と「ち」の違いと、「よ」と「す」の書き分けができるようになろうね。

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