浦和とFC東京のオフサイドあれこれ(私見)

判定変更に時間が掛かった理由

浦和レッズがFC東京と対戦した25日のリーグ戦で、前半ATに浦和の酒井宏樹がゴールした場面は、一度オフサイドと判定された上でVARのチェックによりオンサイドだったことが分かり、得点が認められた。私たちのいる記者席は、味の素スタジアムが陸上競技場の側面も持つ場所なので、メインスタンドの右側にある。これは、陸上のゴールが見える位置に記者席が置かれることが理由なのだけど、そのプレーはメインスタンドから見て左側のゴールで起こった。だから「ああ、オフサイドだったのか」というところで、瞬間的に何か疑いを持つようなことはなかった。ただ、主審が少し長めにVARシグナルをしていたので、際どかったのだろうということまでは想像がついた。

ただ、それにしては随分と時間が掛かったので、他の何かも併せてチェックする必要、例えばパスがFC東京の選手に当たっている、シュートシーンと関係ないところでPKが疑われる何かがあった、などがあるのかと思ったが、単純にVARオンリーレビュー(主審がピッチ脇で映像確認をする必要のない事実通達)でゴールに変わった。この理由は、当日のVARだった家本レフェリーがツイッターで紹介していたので、それを貼り付けようと思う。

VARも実質的には今季が最初のシーズンだから、判定に関わる部分だけでない実務的な部分でも様々なことでトライ&エラー、あるいは改善が検討されるべきことも出てくる。そういった部分は受け入れつつ、何らかの提案がありつつサッカー界が前に進めば良いと思っている。

重要だと思ったことで、本当に重要なことが消える

それで、当該のゴールシーンについて公式にハイライトがあるし、丁寧に平野佑一が酒井にパスを出した瞬間を一時停止している。(3分40秒あたり)

これで見るとFC東京の最終ラインは28番の鈴木準弥で、酒井はオンサイドなのが分かる。このハイライト映像は完全な横からのアングルではないが、芝目のラインやPKスポットを目安にすると、1メートルほどの前後差があるのではないかと推定できる。

だから、こうした広い画面で見ると「ミスジャッジだったね」と言うのは簡単で、もちろんそれが事実なのだけど、この静止画ではなくプレーの流れを見ると、意外に難しい場面なのが多少なりとも審判を経験している自分には感じられた。

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この場面のプレーをストップせずにノーマルスピードで流すと、酒井が3人目の動きで10~15メートルほどスプリントに近いスピードで走り込んでくる。長友佑都が酒井よりもPKスポット側にいて、平野に対応しつつ下がってくる。彼らのコース取りが一致しない上にスピード差がある。副審の位置からは酒井の背後に長友がいる位置関係なので、酒井の体が長友を隠す瞬間が発生する難しさもある。攻撃の流れからして「ここがオフサイドかどうかを見極めなければいけない」という意識が働きそうな場面だ。

その前の時点で副審のラインキープを見ていると、奥の森重真人(3番)と鈴木(28番)の存在は認識しているように推測できる。ただ、「ここが重要になりそうだ」という局面が手前側で発生した時、その奥の部分がスッと視界から消えて情報が遮断されてしまうことがある。これは本当に、人間の脳の構造上で起こりえることで、だからこそJリーグを担当するような審判たちはとんでもないレベルのトレーニングを積むのだけど、静止画で「オンサイドでしょ、これ」と見えるのとは全く違う難しさがあるシーンだと言えるし、言いたい部分もある。だから、VARがいる試合で助かったという表現もできる。

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先ほども書いたとおりにリプレイ映像が完全な横からのものではないので、すごくハッキリしたことは言えないが、平野がボールをプレーした瞬間(ハイライトで一時停止が掛かる瞬間)を見ると、酒井の右足は長友の右足または右肩よりも前方にあるように見える。この位置にグッとフォーカスが寄ってしまっていたなら、副審がオフサイドの判断をしても不思議ではなく、仮にピッチ奥に酒井がオンサイドになる要素がなかったら、最高のジャッジになっていたかもしれない。それくらい、ナイスジャッジとミスジャッジは紙一重のところにある。

そんなわけで、どちらかと言えばルールの紹介というよりも「副審あるある」みたいな話になってしまった感はあるけれども、今週のジャッジリプレイでこの場面は取り上げられなかったので簡単にまとめてみた。すでに、シュートが打たれてから副審が走っていってゴールラインをボールが完全に越えたかどうかの判断をするのは人間の限界を超えるという点で、トップレベルの試合ではゴールラインテクノロジー(VARが兼ねる場合も)が一般化されつつある。それくらい副審に要求されるものは厳しいので、近い将来オフサイド判定に関してもよりテクノロジーの力を借りる方向に進むのではないかと思っている。

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