記者会見がライブ配信されること
キッカケの1つはコロナだろうけど
昨年くらいから、サッカーに関するものでも記者会見そのものがライブ配信される機会がとても多くなった。それまでにも例がなかったわけではないし、僕がよく取材する浦和レッズでは新加入会見がそのまま配信されることもあった。また、日本代表のメンバー発表会見なんかもライブ配信されることが少なからずあったけれども、こちらは質疑応答は配信後に行われることになっている。
そもそも、こうしたライブ配信が増えたキッカケは新型コロナウイルスという社会情勢の中で、記者会見そのものをリモートで行うことが圧倒的に多くなったからだろう。最初からインターネットを介して記者会見をしているわけだから、それをそのまんま配信してしまえば色々な意味で情報発信が楽だ。そこでの発言を上手くやれば発信元にとってメリットが大きくなるのは理解できる。一方で、僕らのようなメディアは、今までと同じスタンスで臨む人とそうでない人に分かれていきそうな気もしている。
今までは下処理されていたものも、そのまんま出る
2年か3年くらい前までの記者会見や囲み取材というのは、非常にクローズなものであって、その場で起きたことや話した内容は、取材を受ける側と取材をする側、そして同席した広報などしか知らないものだった。だから、不規則な発言なんかで「闇に葬られた」まで言うと聞こえが悪いけど、誰もオープンにする必要を感じないことで世の中に出なかったものはある。主催者発表の全文公開というのは、95%くらい信用しても良いかもしれないけど、100%だとは思わない方が良い。ただ、その5%を隠蔽だと叫びたいのではなくて、「それを表に出すのって誰にもメリットないものがありますよね」という程度のことがほとんどなのだけど。
ところが、ライブ配信っていうのは取り返しが効かないので、何か不規則なことを言ってしまっても、そのまんま配信に乗る。だから、取材を受ける側や主催者はそれなりに気を使うのだろうと思っているし、世の中に出る前の修正が効かないので、「ここまで話して大丈夫かな」というラインの少し手前でストップする傾向があるような気はしている。それは自然なことだろう。
一方で、僕らメディアも「誰が何を質問したか」が全世界に公開されることになる。一時期、スポーツナビでは日本代表の監督会見で質問者の了解が取れた場合は、誰からの質問か明記してたことがあったように記憶しているけど、それ以外では積極的に、あるいは質問に答える形で「これは僕が聞きました」と文中やSNSで明らかにするか、「紙面上(誌面上)のケンカ」を誰かがやっている場合くらいしかオープンになっていなかったような気がする。
先日、浦和レッズに移籍加入した酒井宏樹選手、江坂任選手の会見と、どちらの場合も西野努テクニカル・ダイレクターの会見がライブ配信されて、メディアの中で質問内容を批判されている人がいた。これは、今までにはない新しい事象なのだろうと思っている。先に言っておくけど、「新しい」のであって、ポジティブともネガティブとも言っていない。
メディアの中には色々な人がいるけど、僕を含め基本的にサッカー的なことを聞くタイプは、比較的に叩かれにくいだろうなとは思う。また、「浦和、浦和」とこだわるタイプも、それが浦和レッズが主催する会見ならそこまで問題にならないだろう。ただ、これが浦和から他のクラブに移籍した選手の入団会見となると話は変わってくるのだけど。今回だと、彼らは柏レイソルや他のクラブに所属経験があるので、そこに関することを深堀りすると、何か深みか意味のある答えが戻ってくるという「結果を出せないと」理解されづらいかもしれない。
また、それぞれに記事を書く時に「軸」を持っている人もいる。例えば、彼らは日本代表に選出された経験を持つ選手たちだから、その4文字を軸にした記事を書く人は、その軸に沿った質問をする。メディアの規模が大きくなると、代表に絡まないと、そもそも会社からNGを食らうこともある。ただこれも、相手の答えによる「結果を出せないと」好意的な印象は持たれにくそうだ。ただ、それがその人にとって記者会見に参加する意義なので、機会があるなら質問はするだろうし、最初の質問があまりハマらなかったとしても簡単に撤退はできない。それで泥沼になっちゃうことはあるんだけど。
記者の中には本当に色々な人がいて、前述のような何かしらのこだわりや軸を持つ人だけでなく、少し口の悪い言い方をすれば思い込みが激しいタイプだなと感じる人もいるし、本筋から外れたようなことを聞くのが大好きな人もいる。時に「それ、妄想なんじゃないの」みたいな予想とか決めつけを軸にしたような質問をする人もいるんだけど、こういう感じの質問がクリーンヒットすると、すごく面白い話が出てくることがある。ただ、これはとんでもない距離からのロングシュートを狙うようなものなので、当たらなくてもともとみたいなところがある。
これらが過去のクローズな記者会見や囲み取材だと、外れたものは世の中に出ないだけなので、「結果を出せなかった」質問やその答え、意味不明なロングシュートの存在は知られない。会見の全文公開で「意味の分からない質問があるなあ」と思われることがあるかもしれないけど、それを軸にした記事は世の中にそうそう出てこないだろう。
ただ、ライブ配信になると、これらが全部そのまんま世の中に出る。これは大きな変化だと言っていいと思う。
こうやって質問者の名前と内容が可視化されるようになることで、個人のSNSで批判を受けることも出てくるだろう。それは仕方ないと思う一方で、そういうロングシュートを控えるようになったとしたら、それが全体利益なのかは分からないなと思っている。
色々な人が、色々な角度で
前回の投稿で、僕が選手のオフの話みたいなところで記事にしようと取材しても、ロクなことにならない。ただ、そこにはニーズもあるし、それが上手い人もいる。だから、「色々な人が、色々な角度から取材するのが全体利益になる」という考えを持っていると書いた。
それでいくと、時に「わけの分からない質問」とか「聞く意味あるのか」と思われるところからのクリーンヒットがなくなってしまったら、それは全体利益を損なうのかもしれないという思いもある。ただ、多くの人に「わけの分からない質問」や「聞く意味あるのか」と思われている時点で、批判を受けても仕方ないという考えもある。この辺は難しいところだなと思っていて、鉄メンタルの持ち主だったら気にせずにスタンスを変えないかもしれないけど、そうでない人もいるかもしれない。
まあ、自分の中に何か明確な答えがあるかというとそうではないのだけど、記者会見のライブ配信がスタンダードになりつつある中で、僕ら自身もそれを理解した上で参加することが必要になっているのは間違いない。そして、オープンに可視化されていく世の中の流れは決して悪くはない。僕らのような分かりやすく関わる人間だけでなく、色々な意見とか批判があることによって発展させていくことで、より全体が大きな利益を得られるようになればいいと思う。
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