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【スポーツ文化論】カーリングに日本人がハマる3要素プラス1

※細かい用語やルールの説明は割愛しています。権利の問題があり写真がほとんど使えません。ご了承ください。決勝戦に間に合うように勢いで書いておりますので誤字脱字ご容赦ください。

少々長い前文


北京オリンピック・カーリング女子で日本代表のロコ・ソラーレが、ついに決勝進出を果たしました。10チーム総当たりの1次リーグを5勝4敗とし、3チームが並びましたが、規定により4位で準決勝進出。18日の準決勝は1次リーグ最終戦で敗れた昨年の世界選手権女王スイスにリベンジするという格好良さ。テレビ視聴率も高いそうで、試合が進むにつれ注目度が上がっています。決勝は20日午前10時5分(日本時間)からイギリスと対戦します。

ところでカーリングはいつからこんなに注目されたのでしょう。筆者の記憶では2006年のトリノオリンピックが契機ではないかと思います。私はメダル至上主義では断じてありませんが、この当時の日本の冬季競技はやや世界的には苦しい時代。メダルはフィギュアスケート・女子の荒川静香選手が獲得した金メダル1個のみでした。

日本人選手が今一つ活躍しきれないと盛り上げられなくなるのが日本のメディアの悲しいところ。時差もあり、ゴールデンタイムになかなかめぼしい競技がない日も多くありました。そんな中、さらっと組み込まれたカーリング。1次リーグで敗退したものの、カーリング王国のカナダや2002年ソルトレークシティオリンピック金メダルのイギリスに勝利するなど健闘し、注目度が高まりました。

カーリングは「氷上のチェス」と呼ばれ、戦略性の高いスポーツです。ところが日本では、前回2018年平昌オリンピックでロコ・ソラーレが日本カーリング史上初の銅メダルを獲得するも、注目されたのは「もぐもぐタイム」や「ナイス―」「そだねー」という彼女たちの発する言葉ばかり。日本のスポーツ文化の現状を思い知らされているわけです。

今大会の準決勝、リードの吉田夕梨花選手のショット成功率は驚異の99%。メンバーの優れたスイープ力は他国から「クレイジースイーパーズ」と称されるほどです。試合を通して見ていればチームとしての技術の高さもよくわかります。それゆれ、スポーツとしての面白さ、ロコ・ソラーレの戦い方の面白さに夢中になる人もたくさんいるはずです。

けれども多くの日本人の心をつかんでいるのは、やはりちょっと違った側面ではないかと思います。4つ挙げてみました。みなさんはどう思います?

応援したくなるドラマ的展開

例えば1次リーグ序盤から連戦連敗で、早々に敗退が決まれば雰囲気はもりあがりません。でも今回のように、連勝スタートで、その後黒星で1次リーグ突破どうなる? 最終戦で涙、でも4強入り。展開がドラマのようです。

1次リーグは9試合。こんなに毎日試合をする競技はありません。こんな展開で日程が進めば、徐々に応援の熱が上がってくるのもうなづけます。


コミュニケーションなど「組織の3要素」を体現するチーム

カーリングは4人全員がストーンを投げる機会があり、スイープでストーンを進める必要があります。勝利に向かい、全員のチームワークが大事なのは当然です。

加えて中継では、マイクを通して選手の声を聞きながら観戦できます。ロコ・ソラーレのメンバーは、常にお互いと会話をしています。どこに投げるか、置くか、どの石をテイクするのか…。しかも各自が複数の選択肢を持ちながら戦略を立てています。どの試合が失念しましたが(すみません)、戦略を決めてスキップの藤沢五月選手が投げに向かった時、サードの吉田知那美選手が「待って。こういう手もあるのかなー」の呼び止めました。結局当初のプランを貫きましたが、持ち時間をふんだんに使って、全員が納得いくまでコミュニケーションを取っています。

これほどコミュニケーションが活発なチームは、テレビ中継を見ている限りでは、ほかにありません。実際、1次リーグで対戦したアメリカは、スキップがプレーの選択肢を尋ねた際、誰も反応しませんでした。

すこしだけ話を大きくします。アメリカの経営学者チェスター・バーナードが唱えた「組織の3要素」という世界的に超有名な理論があります。その要素は「共通目的」「協働意欲」「コミュニケーション」。言うまでもなくロコ・ソラーレはすべてを十分に満たしているのです。

悲壮感と無縁の選手像

コミュニケーションをとっている彼女たちは、いつも笑顔です。ほくそえんだり、爆笑したりするシーンも見られます。大一番を戦っているのですが、競技をこのメンバーでするのが楽しくて仕方がないという雰囲気を醸し出しています。

かつてのスポーツ、国際大会には悲壮感のようなものが漂うことがありました。人生のすべてをかけて取り組み、メダルが取れなかったら「すみません」と涙ながらに謝る…。一体誰に謝る必要があるのかと思いますが、そんなシーンを見たことがある人もいるでしょう。笑ってプレーなどすれば「もっとまじめにやれ」と叱責されかねませんでした。

ロコ・ソラーレは実に楽しそうに、のびのびとプレーしています。今大会はスノーボードでも見られた光景ですが、努力や実力を蓄えてきたのは当然として、その上でスポーツを楽しむという姿勢を前面に出す選手たちは、見ていてこちらも「ほわっ」とした気分にさせられます。

そしてもう一つ。日本人がというより、日本メディアが盛り上げたくなる要素があるのです。

(ここからは投げ銭用の別視点&短文です)

スポーツメディアの視点は……

簡単なことです。女子だから。

ふざけるな!と言われそうですが、事実だから仕方がないのです。
想像してみてください。もし今回勝ち上がったのが男子チームだったら、ここまで盛り上がったでしょうか。

これはあくまでの「日本人がハマった理由」というより「日本のスポーツメディアがハマる理由」というのが正しいのですが、日本のスポーツ報道は歴史的にオヤジの視点で作られています。

同じ競技で男女どちらを取り上げるかとなった時、女子が大きく扱われる傾向は否めません。特にスポーツ新聞は顕著です。さらに女子ゴルフの記事が載る時、以前はグリーンでパッティングラインを読む選手を正面からとらえる構図が多くありました。スカートをはいている選手なら、どんな絵になるかわかるでしょう。それが日本のスポーツ文化だったともいえるのです。

ロコ・ソラーレの場合。前述したように競技の面白さとチームとしての成熟度、レベルの高さも浸透してきたことは事実です。一方で、もぐもぐタイムと称される時間が相変わらず朝の情報番組や午後のワイドショーで取り上げられることを考えると、「オジサンが見てもらえるのは、女子の楽しそうなそういう姿」という考え方がゼロではないでしょう。その視点がスポーツより優先している部分があるともいえます。

昨今は随分変わってきました。スポーツを性別による観点で報じないというスタンスは徹底されてきているようには思えます。ぜひ「そんなのは昔の話。いまはこういう風に報じられている」と具体例とともに、建設的な批判を聞かせてほしいところです。

競技のおもしろさが先で、そこにオジサンを喜ばせる要素が付随してもダメとはいいませんが、この順序が逆になっているうちは、日本のスポーツ文化はまだまだ発展途上と言えるでしょう。




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