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【食のあしあと】賢治のふるさと花巻発。やさしさも巻いて、揚げたてをどうぞ

食べ物は、その土地の個性や風土をよく表しています。
「食のあしあと」は、昔から食べられている食材や郷土料理、
長く人々に愛されている名物を探し出し、主観でご紹介していく
イラストエッセイです。岩手はおいしいもんがい〜っぱい。
                   illustration by ENGAWA

日和佐のしそ巻き定食

 もういい年なのに揚げ物の誘惑には勝てず、食べてから「ああカロリーが」などと気にしてしまう。肉も魚もそして野菜も、衣をまとわせ揚げただけで、なぜあんなに美味しくなるんだろう。

 罪悪感を(あまり)感じずに揚げ物を食べられるのが、花巻の焼き肉レストラン「日和佐」のしそ巻き定食だ。広げた豚肩ロース肉の上に青じそを載せて、その中央に細切りにした生のナスとカニカマをおいたらクルクルッと巻いて、パン粉をつけて揚げている。

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ランチ定食なので、メインディッシュの他に小鉢や味噌汁もつく。
ご飯は嬉しいどんぶりサイズ。食後には
ミニサイズのコーヒーまでついて感激。

 青竹のようにスパッと斜め切りにしたその断面は、カラフルなミルフィーユ状。香りの良い青じそに、ナスは肉の旨味をたっぷりと吸いこみ、プリッとしたカニカマの食感がアクセントになっている。
 軽いから食べ飽きないし、つけダレがさっぱりした和風ダレというのも素晴らしい。もちろん、ボリューム感も申し分ない。

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別添えの和風ダレ。ソースでもタルタルでもないこのバランス感覚よ。
散らしてあるのは白ゴマでヘルシー感上乗せ。

 このしそ巻きは、女将の関トシ子さんが「家族にも食べさせたくなるやさしい肉おかずを」と店の創業間もなくに考案し、以来40年近くに渡って愛されてきた定番メニューだ。
 最初の頃はニンジンやタマネギも巻いて5色巻きにしてみたこともあるそうだが、ナスとカニカマのツートップに落ち着いた。

「できあいものはあまり使いたくないし、野菜も産直や近隣の青果店で買うことが多い」と店の料理について話す関さんの言葉は、なんだかお母さんみたい。肉巻きではあまりない具材の組み合わせはつまり、食べる人を気遣う女将さんのやさしさだった。

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しそ巻き断面。ナスにも程よい食感が残っているのは揚げ時間を見計らう
プロの技よのう。噛み締めると、青じその香りが立ち上る。

 ところで店名の「日和佐」だが、関さんが日本地図を広げて偶然見つけた徳島県にある地名である。字面にただよう穏やかで美しい雰囲気を気に入った関さんは、当時の日和佐町役場に「店名に使ってもいいですか」と電話をかけ、地元の広報には「宮沢賢治の故郷に『日和佐』が誕生した」と取り上げられたのだそうだ。

 1000キロの道のりと瀬戸内海を超えて、花巻で日和佐は元気に営業中だ。徳島のみなさんにもしそ巻き、食べてもらいたいなあ。


【しそ巻き定食メモ】
花巻の老若男女に愛される同店。お客さんを笑顔で迎える女将さんの笑顔や気遣いが初めてでもほっこりと安らぐ雰囲気。しそ巻き以外にも冷麺とか焼肉(専門店だもん)やハンバーグとか充実しています。が、いつもしそ巻きを頼んでしまう…。
焼肉レストラン 日和佐
花巻市花城町11-41  tel:0198(24)0636

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