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夢幻星#11

酔った体に夜風が気持ちいい。

思わず両手を広げて鼻歌を歌いたくなる。麦くんは私の少し後ろを歩いている。

酔った顔を見られたくないというのが、無意識に私が歩くスピードを早めているのだろうか?

目指している駅に着くまでの時間を少しでも長くしたいのに、体は駅までの道を急ぐ。

なんだこれ?変なの?

少し歩くスピードを緩めてみた。だけど相変わらず麦くんは私の後ろを歩いている。

何?居酒屋での会話で麦くんが私と同じように変わった人っていうのは分かったけど、歩くスピードも変わっている人なのかな?

極端に歩くスピードが遅いとか?

私はそれが気になって振り返ってみた。

振り返った視線の先にいる麦くんはスマホを横に持って歩いていた。私にはそれが動画を撮っているってことにすぐに気がついた。

やべっ!って顔をした麦くんがその証拠だ。

「今、動画撮ってたでしょ〜」

酔っていることを言い訳にタメ口で話せるようになったのはいいことだ。一気に距離が近くなった気がする。

「あ、バレた?いや、いいシチュエーションだなぁって思って咄嗟に動画回してみた」

そういってやっと私の隣を麦くんは歩いてくれた。

「え〜勝手に撮らんでよ〜こんな酔ってる姿。恥ずかしいじゃん」

私はまた麦くんの少し前を歩く。夜の涼しい風のおかげでもう酔いは冷めたけれど、もう少しだけ酔っているふりをしよう。

こういう女性をあざといっていうのかなぁ。自分のこと今まであざといなんて思ってなかったし、そういう女性は苦手だったけど、それをしたくなる気持ちが今なら少し分かる。

ふと、夜空を見上げると星空が広がっている。

真珠っていう私の名前は、星言葉から引用してつけられた名前って親が言ってたっけなぁ。どういう意味があるのかは星に詳しくないからわかんないけど。

「麦くんってさぁ、星とか興味ある?」

唐突に聞いてみた。

「ん?星?なんで急に」

まぁその反応が普通だ。

「いや、なんか星綺麗だなぁって思って」

「まぁ確かに。真珠さん星好きなの?」

いつの間にか私が質問されているけれど、まぁいっか。

「こうやって何も考えずにぼーっと見るの好きかも。てか私の質問にも答えてよ」

「うん?俺も星眺めるの好き。俺の名前親が星言葉から引用したんだって」

え?そこまで似たもの同士になることってある?麦ってどんな星言葉なんだろう?

「そうなんだ。実は私の名前も星言葉から引用してきたらしいの」

「マジかよ!そこまで似る!?俺ら」

2秒前の私が思ったことを麦くんは口にしていた。

駅まであと2、3分。もっとゆっくり歩けばよかったかな。

#12へ続く





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