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小説「サードアイ・オープニング」全12話を書いてみて

 ほんとうのことは目に見えないし、触れることも、言葉にすることもできないとは、多くの物語の中で言われていることです。言語化とは、無尽蔵に溢れくる大河の全体を把握しようと試みるも、せいぜい柄杓で上澄みを汲み取るようなもので、言葉にしたとたん、全体の大半を取りこぼしてしまう上に本質から遠ざかってしまうようです。
 人の心の揺れも川の流れと同じく留めおけないもので、いざ感情にアプローチするとなると、金魚掬い並みの集中を要します。鍋でスープを作るがごとく、具材である登場人物が飛びちり集まりする様を眺めながら、そこに立ち昇った一瞬のパトスを逃さずお玉で掬い上げるといった感じです。それは、思考を手放し無常にひたりつつ、全体の流れを眺めているうちに、偶然に立ち上るトレンドに出会う感覚です。平たく言えば、登場人物たちが勝手に動き出して喋るに任せ、それを速記するといったところでしょうか。
 「サードアイ・オープニング」では、ある程度、魂が磨かれた登場人物たちが、四次元という鍋の中で、葛藤や渇愛や孤独や痛みを抱えながらも、他者のためによりよくあろうと奮闘しています。個性的で愛すべき彼らの物語を共に追体験してもらえたら、鍋の番人もこの上なく嬉しいかぎりです。

 

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