ZOZOTOWNと武田塾~武田塾新ルートへの一抹の不安~

 授業をしない塾として急成長している武田塾。その武田塾は広告を一切つけないYouTubeチャンネルを持っていて、私もよく聴いて参考にしています。その武田塾が先日、共通テストに伴って2020年度版の新ルートを発表しました。その中で感じたのは、武田塾への一抹の不安。なぜ私は武田塾に不安を感じたのか?その理由はZOZOTOWNの業績悪化と同じ轍を踏もうとしているからです。この記事ではこの意味を説明していきたいと思います。

(1)そもそも武田塾とは?ルートとは?
 武田塾は、日本初の授業をしない塾として有名です。授業をしない代わりに市販の参考書を利用し、自学自習を徹底してやることで志望校合格を目指すやり方をとっています。授業をしない代わりに、武田塾は一人ひとりの勉強の進捗状況を徹底的に管理し、確認テスト等で学力定着を確認し、合格への正しい勉強法を導く役割を塾が担っています。そして、この戦略の屋台骨になるのが参考書ルートと呼ばれるものです。
 参考書ルートとは、どの参考書をどのくらいの期間でどういうやり方でやれば成績は上がるというものを明示したものです。高校入門レベル・日大レベル・MARCHレベル・早慶レベル・地方国公立レベル・東大レベルなどの難易度分けもしており、成績を上げて志望校に合格するための正しい勉強の仕方と受験勉強の戦略が詰まっています。
 例えば、日本史であれば「金谷の日本史 なぜと流れがわかる本」でざっと流れと知識に目を通して、「スピードマスター日本史」で頭に入れて、「センター試験への道」でアウトプットしていくといったような感じです。本来はもっと細かな勉強の仕方をYouTubeで説明していますが、これらは納得できるものが多いです。(※賛否有り。特に理系は)
 この参考書ルート。良さは、個人的には以下の2つに集約できると思います。

①何をすれば成績が上がるのかが目に見えてわかる
②誰にでも再現性がある

 ①について。巷にはいろいろな勉強法やテクニックが溢れていますが、その多くは局所的であり、勉強の全体像を捉えたものではありません。結局のところ何をすればいいのかが分からない高校生はとても多いです。その中で武田塾のルートが優れているのは、これをすれば成績が上がるというのが目に見えてわかることです。
 ②について。個人的にはこちらの方が大きいと思いますが、参考書ルートの汎用性が高いことが最大の魅力だと思います。というのも、YouTubeを見ていると、東大生などが真似をしてルートを作って公開していたりしますが、全体的に出来が悪い。この理由は、結局勉強ができる人が選んだものであったり、その人の好みが大きく出てしまっていたりするからです。その点、多くの生徒を抱える塾の強みを活かして、色々な生徒に適合する形のものをセレクトしているところにこのルートの最大の魅力があります。
 私は生徒や知り合いの先生に武田塾のルートを説明する際、ビリーザブートキャンプと同じ構造だと説明します。2008年に流行したビリーザブートキャンプの最大の魅力は、アメリカ軍の基礎トレーニングをベースにしており、誰でもやれば確実にシェイプアップできるところにあると思います。ビリー隊長のキャラクターなどはおまけで、この商品の最大の武器は誰でもこの方法をやれば確実に痩せると思わせたコンセプトだと思います。武田塾のルートも全く同じで、誰がやってもこれをやれば確実に成績が上がりそうだと思わせるコンセプトが最大の強みであると考えます。
 その武田塾が共通テストに向けて新しいルートを公開し始めました。しかし、それを見て私は武田塾に対して一抹の不安を感じました。そして、その時に脳裏に浮かんだのがZOZOTOWNでした。

(2)ZOZOTOWNはなぜ業績悪化したのか?
 ZOZOTOWNは皆さんご存知のとおり、オンラインファッションサイトの最大手であり、現在はソフトバンクグループの傘下となっています。前社長が前澤と言えばわかる人も多いかもしれません。剛力彩芽さんとお付き合いしたり、月旅行を契約したり、何十億するような絵を買ったり、100万円をバラ撒いたりして世間を賑わせる、あの人です。
 彼が社長を降りてソフトバンクに会社を売った理由はシンプルで、業績悪化です。ではなぜ業績が悪化してしまったのか?そこには戦略上の失敗があったと言われています。
 ZOZOの戦略失敗について、ファッションバイヤーのMBさんの分析が的を得ていると思います。結局のところ、ZOZOの失敗は、自社ブランド(PB)を展開したからです。プラットフォーマーのZOZOが商品作ったら、お客さんである他社ブランドと競合するし、何より消費者はプラットフォーマーとしてのZOZOを求めているのであって、ZOZOが作った服を求めていません。自分の世界観を自分で崩したのが失敗だ、というのが彼の分析です。これを聞いたときなるほどと思ったし、鋭い分析だと思います。

(3)武田塾とZOZOTOWNの共通点とは?
 そしてこの分析、最近公開された武田塾の新ルートにもろに当てはまるんです。新ルートの特徴のひとつとして、武田塾が予備校講師とコラボして発刊した参考書がルートに入っているという点が挙げられます。すなわち、自社ブランドの参考書を作って、それを自分たちのルートに入れてしまったわけです。私の認識では武田塾は参考書ルートのプラットフォーマーです。武田塾が生徒たちとのやり取りの蓄積から参考書を「選ぶこと」にブランド力があったはずです。しかし、自社で参考書を作ってしまうことはZOZOと同じ轍を踏んでいると感じてしまいます。少し言葉がきついですが、武田塾が選んだ参考書やルートに魅力はあっても、武田塾が作った参考書には今のところ魅力はありません。
 さらに、これが進むと以下の2つの最悪のシナリオが待っていると思います。

・参考書ルートへの入閣が忖度や利権がらみだと思われてしまう(すでに一部思われている)
・自社ブランドの参考書を出し続けて、それらを参考書ルートに入れ続けると、結局武田塾の作った本ばかりのルートになってしまう。それはすでにルートではなくて、ただの出版社になってしまい、どこの出版社もしていることで、ルートの本来の意義や魅力がますます減退してしまう

 武田塾の新ルートを聴きながら私が感じた一抹の不安とは以上のようなものです。

(4)まとめ
 以上のように、参考書のプラットフォーマーたる武田塾のルートへの不安、共感していただけたでしょうか。ただ、私は武田塾とは一切関係ないし、なんら同業他社ですので、心配するのはおかしな話です(笑)しかしながら、YouTubeで広告もつけずに勉強法を公開し続けている姿勢は支持したいし、今の形を維持することが多くの受験生の利益になると思っていて、どうしても新ルートにはひとこと言いたくて、筆を取ったというわけです。
 いらないお節介ついてでもう1つ。参考書ルートのブランド力を維持するためには、以下の2つのことをすべきかと思います。

・自社ブランドの参考書を作らない、作ってもルートに入れない
・参考書を書いている予備校講師とはできるだけコラボを控える。コラボした人の参考書をルートに入れない

今後の武田塾のルートには期待しつつ、以上が言いたかったことです。

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