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2019年のラグビーワールドカップとは何だったのか?<1/2>〜「2002年」からの照射

 コロナ、コロナで右往左往しているうちに、9月も半ばになろうとしている。そういえば去年の今ごろ、自分は何をやっていたのだろう。

 去年の日記を読み返すと、9月10日にヤンゴンにてミャンマー代表対日本代表のワールドカップ・アジア2次予選を取材。12日に帰国して、14日から福島県のいわき市へ、翌15日には岩手県の釜石市を訪れている。いわきではラグビーサモア代表の合宿を、釜石では釜石鵜住居復興スタジアムをそれぞれ取材。いずれも、ラグビーワールドカップ(以下、RWC)開幕に向けた企画であった。

 そして9月20日、味の素スタジアム改め東京スタジアムで、RWCが開幕。以後、決勝が行われた11月2日まで、日本のスポーツ界はほぼラグビーにジャックされてしまった。この間もサッカーのワールドカップ予選は行われ、日本代表は10月10日にはモンゴル(ホーム)、15日にはタジキスタン(アウェー)と対戦している。これらの試合よりも、13日に行われたRWCの日本対スコットランドのほうが、国民的な記憶に深く刻まれることとなったのは周知の通りだ。

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 今月は、1年前に列島を席巻した「ラグビーの祭典」について、あらためて考えてみたいと思う。懐古的に、当時を振り返るのではない。ここで主眼に置くのは、あくまでも大会の「価値」についてである。RWCはまず、スポーツツーリズムの観点から見て、実に素晴らしい大会であった(その様子についてはこちらにも書いたとおり)。本稿では2回にわたり、わが国での2つの国際的スポーツイベントを比較対象としながら、昨年のRWCについての考察を試みる。

「わが国での2つの国際的スポーツイベント」というのは、われながら口幅ったい表現だ。すでに察しがついている方も多いだろう。そう、2002年のFIFAワールドカップ、そして今年開催されるはずだった東京五輪&パラリンピックである。日本ではあまりピンと来ないだろうが、五輪とFIFAワールドカップ、そしてラグビーワールドカップは「世界3大スポーツイベント」と呼ばれている。このうち、最も新しい大会がRWC。第1回大会が行われたのは、五輪が1896年、FIFAワールドカップが1930年、そしてRWCは1987年である。

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 21世紀の日本は、この世界3大スポーツイベントを、立て続けに開催することとなった。だが周知のとおり、2020年の東京オリパラはコロナ禍によって1年延期。21年に開催されるかどうかも、現時点では不透明だ(少なくとも「完全な形で」というのは厳しいだろう)。一方の2002年のFIFAワールドカップは、確かに国民的な盛り上がりは見せたものの、大会に理念があったかといえば「否」と言わざるを得ない。もちろん異論もあろうが、いささか残念な大会だった、というのが大会を取材した私の見立てである。

 なぜ2002年は「残念な大会だった」と言えるのか。その解は、2019年のRWCとの比較にある。五輪とは異なり、両大会はいずれも単一競技の世界一を決める大会だ。それでいて五輪のような「都市の大会」ではなく、北海道から九州まで開催地が全国に散らばっているのも同じ。しかも、どちらもアジアでの初の開催だ。幸い私は、どちらも両大会をプレスパスを得て取材している。そしてRWCを取材中は、事あるごとに17年前の記憶がフラッシュバックした。昨年のRWCは、それくらい2002年を意識させる大会でもあった。

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 RWCの開催期間中、私は10会場で17試合を観戦した。目の前で繰り広げられる、ハイレベルの白熱したゲームに夢中になりながら、時おりふと思ったことがある。それは「もしも2002年のワールドカップが日本の単独開催だったら、このような雰囲気の中で行われたんだろうな」というものであった。周知のとおり、2002年のワールドカップは、日本と韓国による共同開催。しかし当初は、両国のどちらかが単独開催する前提で、激しい招致合戦を繰り広げていたのである。

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