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『フットボールの白地図』──新たなプロジェクトを始めるにあたっての覚書

 私がnoteで記事を書き始めたのは、2019年3月から。立ち上がったばかりのOWL Magazineに寄稿するため、半ば休眠状態だったアカウントを復活させてのスタートであった(いつ登録したのかは覚えていない)。以来、月2回のOWL Magazineへの寄稿のときだけ、投稿ページを開いている。

 最近「noteとの向き合い方を、もう少し考えたほうがいいのではないか?」と考えるようになった。ちょうど折も折、3年ぶりの新著となる『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』を今月上梓する(発売日は11月13日)。今回もそれなりに大変な作業だったが、すべての作業を終えた瞬間を、まさに次の取材の旅に向かう新幹線の中で迎えることとなった。

 10月下旬から11月初旬にかけて、9泊10日で西日本を急ぎ足で巡ってきた。ルートは、富山〜三重〜和歌山〜大阪〜滋賀〜京都。JリーグやJFLや天皇杯の試合も取材したが、それ以上に移動に費やす時間のほうが長い(三重県の桑名市から和歌山県の新宮市までは、ローカル線を5時間乗り継いでの長旅だった)。ちなみに明日からは、やはり9泊10日で中四国地方をめぐる予定だ。

 なぜ、これほどまでに私は、国内を駆けずり回っているのか。それは、コロナ禍によってペンディングになっていた写真集の企画が、一気に動き出したからだ。今回のテーマは「47都道府県のフットボールのある風景」。まさに、長年にわたり地域のフットボールを追いかけてきた、私ならではのテーマであると言えよう。

 現在、JリーグはJ1・J2・J3合わせて56クラブが活動しているが、Jクラブがない県は8つある(福井、滋賀、三重、和歌山、奈良、島根、高知、宮崎)。もちろん、これらの土地にもフットボールを強く感じさせる風景というものは、間違いなく存在する。むしろ、フットボールの視点から日本の地域性について考察する時、Jクラブのみにフォーカスするでは、自ずと限界があると言わざるを得ない。

 これまで、さまざまな国内サッカーのカテゴリーを取材するべく、全国をほっつき歩いてきた。ようやく昨年、全国47都道府県を踏破できたが、当然そこには濃淡がある。松本や今治のように何度も通った土地がある一方、随分とご無沙汰していたり、半日しか滞在していなかったりする土地もある。その濃淡を埋めるべく、綿密な計画を立てていたところで、今回のコロナ禍に見舞われてしまった。

 気がつけば、今年も残り2カ月。例年よりも深い時期までJリーグは開催されるが、12月20日で閉幕すれば2月までオフシーズンとなる。その前に、なるべく均一に「フットボールの白地図」を塗りつぶすべく、慌てて動き回っているのである。ここで問題となるのが、「どうやってアウトプットするか」。写真をメインしたフットボールの紀行文など(それこそOWL Magazine以外は)受け入れてくれないだろう。

 そこで思い出したのが、このnoteである。記憶が鮮明なうちに現地での写真を整理し、さらに過去の写真の棚卸しをしながら「47都道府県のフットボールのある風景」について、あれこれイメージを膨らませてみるのはどうか。完成品は、あくまでも来年上梓する写真集。このnoteでは、その試作(あるいは思索)の場として公開していくのはどうだろう──。

 今回、さまざまなnoteでの発信をリサーチしてみて、気づいたことが3点ある。まずnoteは、自身の内なる表現の欲求を発露させる場である、ということ。そしてnoteは、試行錯誤が許される場である、ということ。さらにnoteは、自分の仕事を誰かに気づいてもらう場である、ということ。そこで得られた結論は「実はそれほど、完成度にこだわる必要はない」というものであった。

 もちろん「手を抜く」つもりはない。「肩の力を抜く」のだ。その代わり、更新頻度は上げていく。写真集が書店に並ぶのが来年4月の予定なので、残り半年。47都道府県の「フットボールの白地図」を6カ月で塗りつぶすとなると、1カ月で8本のフォトエッセイを更新しなければならない。そのためには、これまで培ってきた、私自身の表現のスタイルを変えていく必要がある。

 このnoteにおける『フットボールの白地図』というプロジェクトは、いうなればエスキース(素描)のようなもの。それでもあえて公開するのは、毎回登場する都道府県について、それぞれの土地にゆかりのある方からのアドバイスや示唆をいただきたい、という思惑があるからだ。寄せられた情報は精査の上、写真集に添えるテキストのヒントとさせていただければと考えている。

 そんなわけで『フットボールの白地図』では、完成度よりもスピード感と更新頻度を優先させつつ、皆さんからの土地にまつわる「想い」や「記憶」についても広く蒐集することにしたい。と同時に私自身、ひとつひとつの原稿への気負いを排除することで、新たなスタイルを模索したいと思っている。ゆえに本稿も、あえてじっくり読み返すことなく、思い切って公開ボタンを押すことにしよう。

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2017年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。



 



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