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意外な人物が促した県内2強の「ユナイテッド」〜フットボールの白地図【第20回】高知県

<高知県>
・総面積
 約7104平方km
・総人口 約69万人
・都道府県庁所在地 高知市
・隣接する都道府県 徳島県、愛媛県
・主なサッカークラブ 高知ユナイテッドSC
・主な出身サッカー選手 山口智、吉村圭司、小松塁

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「47都道府県のフットボールのある風景」の写真集(タイトル未定)のエスキース版として始まった当プロジェクト。前回は、日本3大サッカー王国のひとつ、埼玉県を取り上げた。今回はサッカーではなく「野球王国」として知られる、高知県にフォーカスすることにしたい。思えば私が、この県を初めて意識したのも、長編野球漫画『ドカベン』に登場する土佐丸高校であった。

 四国4県の中でも、高知は「サッカー不毛の地」と呼ばれ、同県出身のJリーガーも極めて少ない。山口智にしても吉村圭司にしても、中学卒業と同時に高知県を後にしているのは、地元に彼らの才能を育むだけの土壌がなかったからだろう。長年にわたり、県内のサッカー界を牽引してきたのは、高知大学。ここのサッカー部からは、菅和範、實藤友紀、有間潤といったOBたちがJリーガーとなっている。

 それでは高知県のクラブが、初めて「上」を意識するようになったのはいつかといえば、実は21世紀に入ってからの話である。2001年の地域決勝、四国チャンピオンとして出場した南国高知FCが、初めて決勝ラウンドに進出。わずかに1ゴールが足りず、JFL昇格を逃している。その後は大きなトピックスもなく、高知からJリーグを目指すという機運も萎んでいく。しかし2014年、ある人物が隣県にやって来てから状況は一変する。

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 高知といえば、まず思い浮かぶのが坂本龍馬。2011年に高知駅前に建てられた、土佐勤王党3志士像(向かって龍馬の左が武市半平太、右が中岡慎太郎)は、高知観光の撮影スポットとしてすっかり定着している。台座を含めると、高さは8.3メートル。ブロンズ像のように見えるが、実は強化発泡スチロール製で重さは400キロほど。台風が接近すると撤去されるため、ネット上で「龍馬が脱藩!」と話題となることもしばしばである。

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 高知といえば、次に思い浮かぶのが「はりまや橋」である。その存在を初めて知ったのは、前述した土佐丸高校の犬飼小次郎主将が、打倒明訓のあかつきとして語った「真紅の大優勝旗ははりまや橋を渡るんだ!」というセリフ。さぞかし立派な橋なんだろうなと思っていたら、あまりの小ささとレプリカ感に愕然とした記憶がある。はりまや橋は、北海道の札幌時計台、長崎県のオランダ坂と並んで「日本三大がっかり名所」と呼ばれているのだそうだ。

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 高知といえば、もうひとつ忘れてならないのがアンパンマン。高知市内を歩いていると、アンパンマンのラッピングが施された路面電車や石像をあちこちで目にする。JR四国でも2000年から、アンパンマン列車を運行。JR高知駅の接近メロディは、もちろん『アンパンマンのマーチ』である。原作者のやなせたかしは東京都の北区で出生しているが、父親の実家が高知県香美市。2011年に高知県名誉県民第1号として顕彰されている。

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 サッカーを取材する人間にとって、高知といえば「クラブ」ではなく「スタジアム」がまず思い浮かぶ。1987年にオープンした、高知県立春野総合運動公園陸上競技場。2001年3月17日には初めてJリーグの試合が行われ(コンサドーレ札幌vs柏レイソル)、翌年には「よさこい高知国体」のメイン会場となった。私にとっての春野は、地域決勝の試合会場としてのイメージが強い。15年には決勝ラウンドが開催され、ラインメール青森とブリオベッカ浦安がJFL昇格を決めた。

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 さて、南国高知FCのその後である。2014年、クラブ名をアイゴッソ高知と改め、本格的にJリーグを目指すことを宣言。しかし同年、優勝したのはダービーの関係にある、高知UトラスターFCであった。高知大学と提携していたトラスターに、アイゴッソは2シーズン連続で後塵を拝することとなる。さらに15年からは、元日本代表監督の岡田武史がオーナーとなったFC今治が、高知の2強を圧倒。今治は四国リーグの風景を一変させ、16年には地域CLを突破した。

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 結論から言えば、岡田武史が隣県にやって来たことが、高知の2クラブの合併を促すこととなった。16年1月15日、アイゴッソとトラスターが合併し、新たに高知ユナイテッドSCとなることを発表。クラブカラーは、アイゴッソの赤とトラスターの緑を合わせたものとなり、高知の名産品であるカツオがエンブレムの中央を飾った。高知ユナイテッドは、その後4シーズンにわたって四国リーグで足踏みを続けたが、20年からは戦いの舞台をJFLに移している。

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 高知取材の際に必ず訪れるのが、帯屋町アーケードにある「ひろめ市場」。名前は市場だが、土着的なフードコードといった趣で、高知の郷土料理のみならず、中華やコリアン料理など40以上の飲食店が軒を連ねる。オーダーはスタグル方式で、各店舗のいいところ取りができるのも嬉しい。土地柄だろうか、昼飲みの客が多いのも特徴。仕事が立て込んでいない時に、ぜひ試したいところだ。

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 高知を訪れたら、何はなくとも食したいのが、カツオのたたき。漁れたてのカツオを強力な火力で焼き上げて、冷水で一気に締めて出来上がり。ネギやミョウガ、おろし生姜、スライスニンニクなどを載せ、ポン酢をかけていただく。地元の人には、粗塩をかけて食べる塩たたきも好まれているようだ。ひろめ市場ではカツオだけでなく、酒盗(しゅとう)に地酒の土佐鶴もセットでオーダーしたい。

<第21回につづく>

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2016年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。


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