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成長を続ける中国 多様化するニーズを掴め

2月19日に開催した第2回テラロハウスのテーマは「コロナ後、成長を続ける中国に香川を売り込むには」。中国経済の成長率は2020年通年で2.3%増となり、主要国が軒並みマイナス成長のなかプラス成長を続けた。

その中国の首都、北京で04年から美容事業を経営する朝倉 禅さん。中国人顧客の要求の一歩先を提供する「ASAKURAスタイル」は、自身がプロデュースしたショーやファッション誌との連携により中国美容業界に浸透した。美容業界にとどまらず、中国向け香川県PR事業のディレクターとしても活動。香川県知事から「KAGAWAアンバサダー」に委嘱され、Newsweek誌の「世界が尊敬する100人の日本人」にも選出された。

「日本食や瀬戸内の観光は、中国全土の全国民がターゲットとなり得る」なかで、多様化する中国人のニーズを捉えるには「継続的な発信で、点と点を線にしていく必要がある」と朝倉さん。今後、日本そして香川県(地方都市)が中国から選ばれるための方策を探った。聞き手は、ことでんグループ代表の真鍋康正さんとテラロックの寺西康博さん。

※出演者のご了解を得たうえで、公開しています。

テラロハウスvol2

▽中国と日本

真鍋 先日、朝倉さんからオンラインで、中国の国内消費が活性化している状況を聞いて驚いた。中国ではすでに「アフターコロナ」が始まりつつある。

寺西 中国の今についてリアルな声を聞ける機会はないので楽しみ。早速だが、現在の中国国内の消費の動向はどのような状況か。

朝倉 今の中国は、規律を守りつつ国内でいかに楽しむかというムード。物理的に国外に出られないことから、これまでの国外消費がごっそり国内消費にシフトしている。特に南部の経済成長がめざましく、開発や新規プロジェクトが次々に生まれている状況。そのような中で、日本に行けないけれども、日本食を食べたい、日本のモノを買いたいという需要は確実に高まっている。それほど中国にとって日本は密接で重要な存在。

寺西 朝倉さんが中国で日本の観光PRを本格的に始めた2014年当時の状況はどうだったのか。

朝倉 15年の流行語大賞に「爆買い」が選ばれ、「インバウンド」もノミネートされた。その頃、急速に外国人観光客が日本を訪れるようになった。だが、その頃は香川側と話しても「海外の方に楽しんでもらえるような資源はないから」という姿勢だった。私は香川を東京、大阪の後に続く5番手、6番手に位置づけたいと考えていた。「爆買い」という言葉に表される「買い物」中心の訪日旅行の次の時代が必ずくると確信していたからだ。その時に香川県が選ばれるためにも、まずは香川県のことを知ってもらう必要があった。

寺西 どのようにして香川県を知ってもらったのか。

朝倉 当時のプロモーションは中国最大のSNS「Weibo(微博・ウェイボー)」一択だった。そこでインフルエンサーに香川県に関する発信をしてもらった。動画共有サイト「Youku」にアップした香川旅の魅力を伝えた動画は1千万回を越える閲覧回数を記録した。

真鍋 中国がすごいのは、Weiboなどローカライズで独自の進化を遂げプラットフォームを作り切るところだ。Amazonとよく対比されるアリババの戦略を見ていても、すでにAmazon以上のサービスになっている。

朝倉 確かに、メッセンジャーアプリ「WeChat」もそう。

1千万回超え.001

▽今こそ発信

真鍋 中国で日本のモノを売ろうとした時にどのようなターゲット設定をしているか。

朝倉 飲食や買い物に関して、日本のモノはすでに浸透している。もはや富裕層に限られていない。また、中国人に反日的な感覚はないと感じる。どのような切り口で売っていくかによってターゲットは異なるが、中国全土の全国民が対象になり得る。大きな可能性を秘めた市場だ。

真鍋 中国では今後どのような需要が生まれてくると思うか。

朝倉 まだ中国では海外旅行に行ったことがない人が多数。コロナが終息すれば、日本に行きたい人たちはたくさんいる。爆買いではなく、日本でしか買えない、食べられない、体験できないもののために行く。旅の目的は個人ごとに多様化している。今のうちにしっかりターゲットを絞り発信しておくことが重要だ。直近、中国国内で「コロナ後に行きたい場所ランキング」を調査したところ香川県が一位になった。この機会をつかめるように準備しておかないと。

真鍋 香川県はアートとうどんで売ってきた。それ以外に中国人はどのようなところに魅力を感じるか。

朝倉 自然と島。瀬戸内の島々をアイランドホッピングのように楽しむツアーなどは魅力的だ。旅行者の目線でツアーを企画することが大切。例えば、電車。中国だと特急列車か長距離列車にしか乗る機会がない。香川県を走る「ことでん」は電車に乗ること自体がコンテンツとなる。

真鍋 たしかに、鉄道ファンは全世界にいて、当社の貸切列車のサービスを利用いただくこともあった。ところで、島のランドスケープ(景観)は来てもらうことが前提となる。こちらから持っていけるものはないか。

朝倉 食と地域の特産品。伝統工芸品なども可能性を感じる。現地を訪れてもらえない今こそ、食やモノを通して地域のことを知ってもらう努力をするべき。

食事シーン

▽切り口

寺西 情報発信で重要なことは何か。

朝倉 継続的な発信だ。大金を使えば1千万回再生される動画を作成することはそこまで難しくない。単なる再生回数よりも目的の達成にどれだけ貢献したかを重視すべき。人の嗜好は多様化している。時代に合わせて求められる情報を届け続けることが必要になる。ここ数年はメジャーな媒体よりもターゲットを絞り込んだメディアが求められる傾向がある。4年前から香川県三豊市にある父母ケ浜(ちちぶがはま)を発信している。キャッチコピーは「天空の鏡」にした。切り口を工夫した情報を発信すれば、人の心に残り行動を変えることができる。

真鍋 日本の地域を発信する際の単位はどのようにすれば効果的か。

朝倉 中国人の日本を捉えるメッシュは年々細かくなっている。とはいえ、大阪のコインロッカーに荷物を入れたままで香川を訪れたりする。中国の広大な国土からすればそのぐらいの距離感。とすれば、日本という枠で捉え、東京や大阪からのアクセスを踏まえた上で、行程の一つに選ばれるように香川県を位置付けていく必要がある。もちろん父母ケ浜のようにピンポイントな情報発信も重要となる。しかし、ブランディングの観点からいえば「瀬戸内」という地域単位で広報していくことが良いのではないか。

寺西 多様化したニーズを捉える継続的な発信が必要とのこと。朝倉さんは時代に合わせて効果的な発信を続けている。何を意識しているか。

朝倉 切り口は無限にある。例えば、日本の春夏秋冬をストーリーとしてどう伝えるか。陥りがちな失敗は、点で考えた発信。点と点をつなげて線にしていく発信をどれだけできるか。これからの中国国内での発信は一部の日本ファン向けにするものではない。様々な層に日本を全方位で売り込んでいくことが必要だ。

旅

▽個人の声

真鍋 中国国内での日本に対する関心をリアルタイムで入手するにはどうすればいいか。

朝倉 中国人には、自分が良いと思ったものを発信したい、それで周囲を巻き込みたいというメンタリティーがある。旧正月に合わせて、香川県クイズのお年玉企画を実施した。「瀬戸内国際芸術祭サポーターこえび隊で活動していました。日本の魅力は…」などたくさんの声が集まった。個人のリアルな声を集めることが重要で、その声こそが最大のプロモーションになる。商業的な思惑がある広告は消費者に見透かされる。

寺西 今後、中国から香川県(地方都市)が選ばれるためには。

朝倉 中国では個人が日常生活を自由に発信する。言葉尻を捕らえて叩くという日本でしばしば見られる現象は中国ではほとんどない。小学生から高齢者までがSNSを使い発信者となっている。SNSにおいては「映える」場所が強い訴求力を持つ。他では体験できないもの、そしてどこよりも「映える」場所のブランディングをしていくことが選ばれるために重要だ。

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