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物流2024年問題は長期的な競争力強化のための課題

2024年問題は、我が国の経済に長期的に影響を与え続けると考えられる。人口減少が続く日本では、物流問題の根本的解決を図ることが持続可能な経済実現のカギの一つである。デジタル技術や自動運転などの技術的ブレークスルー、モーダルシフトや関係者の行動変容などで、ドライバー減少に伴う貨物輸送能力不足を補うことは可能である。


2024年問題による貨物輸送能力不足


いわゆる「2024年問題」は既に各所で顕在化しつつあるが、我が国の経済に長期的に影響を与え続けると考えられる。物流2024年問題と呼称されることもある2024年問題は、働き方改革関連法(労働基準法、労働安全衛生法などの8つの労働関連法制の改正)によりトラックドライバー等の労働時間に上限が課されることで生じる諸問題を指す。具体的には、貨物輸送能力不足、運送事業者の収益の減少、ドライバーの収入減少、収入減少による担い手不足などが生じる。特に貨物輸送能力の不足は経済全体に大きな影響を及ぼす。
国土交通省、農林水産省、経済産業省が共同で設置した「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の「最終取りまとめ」(2023年8月)には、具体的な対応を行わなかった場合に不足する貨物輸送能力の試算が示されている。コロナ禍以前の2019年度の貨物輸送量等と比較して、2024年度には貨物輸送能力の14.2%が不足することが見込まれ、その後のドライバー数の減少の影響も加味すると2030年度には貨物輸送能力の34.1%が不足する可能性がある。

国内貨物輸送はトラック依存


自動車貨物輸送の中心となるトラックのドライバーに関する問題は、我が国の物流全体、ひいては経済全体にかかわる問題である。
我が国の貨物輸送量と輸送機関別の比率の推移を示したのが図1である。
上図のトンキロベースでは、1960年度時点で比率が多い順に内航海運(46%)、鉄道(39%)、自動車(15%)であったが、1970年度時点で自動車が鉄道を上回っており、1985年度時点で自動車は内航海運を若干上回っている。1990年度以降は自動車がトンキロベースで50%を下回ることは無くなり、2000年代後半には60%を超えた時期もあった。
下図のトンベースで見ると、1960年度時点でも自動車の比率が最も多く75%を超えている。次いで、鉄道、内航海運となっており、上図と併せ見ると、長距離輸送は自動車よりも船や鉄道が主体であったことが推測される。トンベースでの自動車は1965年度には80%を超え、1985年度以降は90%を超え続けている。一方、トンベースでの鉄道は1960年度に15%強であったが、1965年度には9%強、1970年度には5%を下回り、1990年代半ば以降は1%前後となっている。トンベースでの内航海運は1960年度時点で9%程、その後は7~9%前後で推移し、2003年度以降は8%前後と比率としては大きな変化は見られない。
図1の上図、下図から、1960年代までは長距離輸送では鉄道がそれなりに利用されていたが、1970年代以降は長距離輸送においても鉄道から自動車にシフトしている様子が分かる。トラック等の自動車による長距離輸送は長時間労働に繋がりやすい。トラックドライバーに関する問題は、我が国の貨物輸送に関する問題に直結するのである。
 
図1:貨物輸送量の推移(上図:トンキロ、下図:トン)

出所:国土交通省ウエブサイト「交通関係統計資料」「交通関係基本データ」より筆者作成(図の注を文末に記載)

供給制約と需要拡大が2024年問題

(1)長時間労働の慢性化と上限規制導入

トラックドライバーは長時間労働が慢性化しており、その解決が重要な課題である。トラックドライバーの労働環境改善を実現するために時間外労働の上限規制が導入され、そのこと自体は望ましい施策だが、前述したように物流分野に大きな課題を突き付けることとなった。
従来は過度の時間外労働については行政指導のみであったが、2018年の労働基準法の改正により罰則を伴う時間外労働の上限規制が導入された。時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合は年720時間となった。2018年に法改正されたが、大企業については2019年4月1日、中小企業については2020年4月1日から施行となった。ただし、建設事業、自動車運転の業務、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業は上限規制の適用が改正法施行5年後からとされ、特に自動車運転の業務については特例業種として年960時間が上限となっている。とは言え、時間外労働の上限規制が導入されることには変わりがなく、2024年4月1日から施行されている。
国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状」によると、トラック運送事業は労働時間が全職業平均より約2割長く、年間賃金が全産業平均より5~10%低く、人手不足は全職業平均より約2倍高く、年齢構成は全産業平均より若年層と高齢層の割合が低い(国土交通省ウエブサイト「物流関連データ」掲載、2024年5月1日アクセス)。さらに、貨物1件当たりの貨物量が減少する一方で物流件数が増加する物流の小口多頻度化が進行しており、ドライバー不足に拍車をかけている。

(2)供給制約と需要拡大

前述したように我が国の国内輸送の中心はトラックであるが、トラックドライバーは人手不足が続き、さらに労働時間に上限が課されたことで、供給制約が深刻となっている。一方で、EC(Electronic Commerce、電子商取引)市場の急成長による宅配便の取扱個数増加等により件数ベースで見た需要は拡大が続いている。
 
図2:宅配便取扱個数と再配達

出所:国土交通省ウエブサイト「令和4年度 宅配便・メール便取扱実績について」「令和4年度宅配便等取扱実績関係資料」、「宅配便の再配達率サンプル調査について」「宅配便再配達実態調査 概要」より筆者作成(図の注を文末に記載)

宅配便は送る側、受け取る側双方にとって利便性が高く、リアル店舗を必要としないECと相性が良い仕組みである。しかしながら、輸送を担う運送業者にとっては配達の効率性向上が収益を大きく左右するのに加え、再配達率の上昇が大きな課題となっている。コロナ禍で在宅比率が高まった2020年度に再配達率自体は大きく低下しているが(図2)、宅配便取扱個数が増加しているため再配達件数はほぼ横ばいであったと推計される。

物流分野の課題解決は技術的ブレークスルーと発想の転換

(1)政府による施策の概要

2024年問題について、関係各所が様々な対策を講じているのは言うまでもない。
政府による物流に関する施策は、2021年に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)」がメインとなっている。同大綱では今後の物流が目指すべき方向性として、[1]物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流)、[2]労働力不足対策と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流)、[3]強靱で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流)、を挙げており、関連する施策を位置づけている。
さらに、国土交通省、農林水産省、経済産業省の三省により、有識者、関係団体及び関係省庁からなる「持続可能な物流の実現に向けた検討会」が設置され、「持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ」が2023年8月に公表されている。また、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が設置され、「物流革新に向けた政策パッケージ」(2023年6月)、「物流革新緊急パッケージ」(2023年10月)、「2030年度に向けた政府の中長期計画」(2024年2月)が同閣僚会議の決定として公表されている。
直近の「2030年度に向けた政府の中長期計画」(以下、「中長期計画」)の主要施策としては、(1)適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正等、(2)デジタル技術を活用した物流効率化、(3)多様な輸送モードの活用推進、(4)高速道路の利便性向上、(5)荷主・消費者の行動変容、が挙げられている。
「中長期計画」の主要施策(1)適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正等については、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」が本年(2024年)4月26日に成立した。ドライバーの負担軽減に向けた中長期計画作成や定期報告等を大規模事業者に義務付け、物流統括管理者の選任を大規模事業者の荷主企業に義務付け、実運送体制管理簿(下請け状況が分かる管理簿)の作成をトラックの元請事業者に義務付け、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)等について記載した書面による交付等をトラックの元請事業者に義務付け、などの規制的措置が定められている。これらにより、物流の持続的成長を図り、荷待ち・荷役時間削減、積載率向上による輸送能力の増加、などを狙っている。
なお、今回の改正で「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」は「物資の流通の効率化に関する法律」(通称:流通業務総合効率化法)に名称変更された。

(2)車両管理等

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