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【ショートショート】失速デート
「花子ちゃん、お待たせ」
今日は太郎と花子の初デート。太郎はバイクで花子の家まで迎えにきて、ヘルメットを渡した。
「後ろに乗って」
「うん」
市中を走っているとき、花子は遠慮がちに太郎の横腹を両手でつかんでいるだけだったが、高速道路に入り、太郎がグオンとスピードを上げたので、花子はきゃあと後ろに体重を持っていかれた。
「花子ちゃん、危ないからしっかりとつかまって」
「うん、分かった」
花子は太郎の腹に両腕を回し、ぐっと前に近づいた。太郎の背中には、それこそ花子の恥骨から胸まで全体の熱が伝わった。
──うう、これは……。
花子はその気なんじゃないかといろいろ想像すると、男の証が熱くなる。普段何も感じないバイクの振動までが、興奮を高めるように作用する。花子の腕が下半身までおりてこなければいいがと、そればかりが心配で、気もそぞろになり、事故を起こしては大変だとスピードを落とした。
サービスエリアに行きたいという花子からの頼みで立ち寄った。先にバイクからおりた花子はヘルメットを外し、頭を振って髪をバサッと後ろに持っていったので、甘い匂いが太郎まで届いた。太郎もおりてヘルメット外した瞬間、いきなり花子の手の平がばちんと太郎の頬を打った。
「痛って……何?」
鬼の形相の花子は、走行中むらむらと湧き上がっていた思いの丈をぶちまけた。
「遅い、遅すぎる! あー、いらいらしてストレスがたまる! もう無理、さよなら」
呆気に取られる太郎をよそに、ヘルメットを太郎に叩きつけた花子は、大股でズカズカ歩いて去っていった。
「そりゃないよ、花子ちゃん」
(了)
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