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妻が突然踊り子になりたいと言い出した時

あなたはありますか?妻から突然「私踊り子になる」と言われたことが。


私はあります。この夏、私の妻は踊り子になりました。



確かに、あの時妻は酔っ払ってはいました。でも、目が本気でした。酔っ払っても、人は本気の目ができるんだということを私はこの時はじめて知りました。

しかし、いまだに私には真似できません。酔ってあんな目ができるなんて、ある意味正気の沙汰ではありません。まぁ酔っ払っている時点で正気の沙汰ではないですが。



どうやら妻(元中学校の先生)は、かつての教え子とお酒を酌み交わした際に「よさこい」への参加をすすめられたようです。


妻の良いところは、そのノリの良さ。

彼女は、僕がある晩突然「世界一周しようか」と提案したところ、3秒で「いいやん。行こう」と返答した女なのです。

提案したやつも、提案されたやつも、正気の沙汰ではないのです。


そんな妻が可愛いかつての教え子から「よさこい一緒ししませんか?」と言われ、「いいやん。やりたい」と言わないはずがありません。



そんなわけで、妻はある日突然踊り子になりました。


「国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった」とは、『伊豆の踊り子を書いた川端康成の代表作『雪国』の冒頭の一節ですが、この場合の冒頭部分は

「夜通しの長い飲み会から帰宅すると妻は踊り子だった」となるわけです。


そんな妻は踊り子になることを誓った日から、猛特訓を始めます。よさこい本番に向け、週末は神戸から大阪まで仕事の合間をぬって踊りに行きます。

時には、「合宿」という中学生や高校生みたいなワードをひっさげて、本番のよさこいが行われる高知県まで旅立つことも。


そして、僕がすっかり夢の中にいるころ、隣の部屋で映像を流しながら黙々と、踊りの練習。


ちなみに、この踊りの練習中に僕が目を覚ましたことはなく、後日妻に「いつ練習していたの?」と聞いたところ、「君が寝てから踊っていたんだ」との返答。


妻の踊りがしなやかすぎたのか、僕の眠りが深すぎたのかはわかりませんが、とりあえず深夜に踊りつつ、妻は着実に踊り子に近づいていったわけです。


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そして、いよいよ本番。妻が踊り子デビューする日がやってきました。妻は前日から同じよさこいのチームのメンバーと最後の仕上げ。僕はホテルに1人で宿泊です。


高知県で行われるよさこい祭りには、多くのチームが出場します。市内に設けられたいくつかの会場に、時間ごとに出場し、時にはステージの上で、時には商店街を練り歩くというスタイルで、各チームの踊りを披露するのです。


ある特定のチームを目的に、いろんな会場に出向いて応援することを「追っかけ」といい、妻が踊り子デビューを果たすとともに、僕は晴れて追っかけデビューを果たしました。



さて、肝心の妻は、前日の行きの車で本番衣装を仕上げる土壇場っぷりを見せながらも、踊りの方はサマになっており、まさしく踊り子。直前まで「自信ないわー」と自信たっぷりの笑みで言っていただけのことはあります。


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僕も初めは「妻の踊りを何度か見てあとはカツオと日本酒で楽しくやるか。ぐへへ」なんてことを考えてたんですが、どうやらこのよさこいというのは、「にわか追っかけ」を「本気追っかけ」に変えてしまう力があるようで、酒も飲まずに、妻のチームがいるはずの会場をはしごしてみたり。違うチームのよさこいを観覧してみたり。


妻が踊り子になるのも衝撃的ですが、まさか結婚してから妻の追っかけになるとは思いもよらず。



そんなこんなで、よさこいを楽しみ、もちろん夜は酒と土佐料理を堪能し、高知の夜はふけいくのでした。



よさこいを終えた妻は来年も踊りたいようで、「君も踊り子にならない?」との誘いを受けましたが、「僕は来年も追っかけでいたいです。」と丁重にお断りさせていただきました。

来年のよさこいも、日本酒もカツオもうつぼも、芋けんぴも坂本龍馬も楽しみです。





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