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ホテルの朝ごはんバイキングで、ちっぽけさに気付かされた話

朝ごはんバイキングというものに、異常な興奮を覚える。

朝ごはんからバイキング。もはや、脂肪の権化にとっては、最高の贅沢だ。


さて、先日そんな朝ごはんバイキングに行ってきた。
とあるホテルの近くに仕事で用事があり、早起きして予定の1時間半ほど前に目的地に入り、朝ごはんバイキングに向かった。


それにしても、バイキングという響きが良い。直訳すると海賊である。ワンピースを求めて、ゴムと化し、仲間と戦うあれと同じやつ。海賊のように、好きなものを好きなだけ食らう。

おしゃれな人はビュッフェとか、ブッフェとか呼ぶが、僕は積極的にバイキングと呼ぶことにしている。もしくは食べ放題。その方がモチベーションが高まる。

話がそれたが、朝ごはんバイキングの話だ。

ホテルに入って、宿泊者ではないことを伝える。受付の人が、優しい笑顔で対応してくれる。

そう、宿泊していないホテルの朝食バイキングの第一関門はここだ。宿泊者でないことの負い目が、どうしてもここで僕を緊張させる。


「は?宿泊もしてないのに、何朝ごはんだけ食べにきてんのこいつ。お前は、ヨネスケか。知り合いでもないのに、急に突撃して晩ご飯だけ食べにくるヨネスケなんか?」

そんな風に思われていたら、どうしよう。心配性を変な方にこぢらせて、そんな風に考えてしまう。


しかし、全てのホテルマンがそうであるように、今回も真摯に礼儀正しく、笑顔で座席へ案内してくれた。ヨネスケも、びっくりだ。



さぁ、入ってしまえばこっちのもんだ。いざ食事を取りに行く。気分は海賊だ。

朝ごはんなので、パンといきたいところだが、和食もすてガタイ。なぜだろう。いつでもできる味噌汁とご飯の組み合わせが、朝ごはんバイキングの際に、とてつもなく魅力的に感じるのは。温泉卵も取ろう。あぁ、あのバイキングの時だけみる小さな魚の切り身も。

あんなに小さな鮭、どこの海に泳いでるんだろう。朝ごはんバイキングの3大ミステリーの1つである。


よし、気分は完全に和食だ。でも、やっぱりクロワッサンもすてガタイ。あぁ、あそこでシェフが焼いているオムレツ。あれとクロワッサンを同時にいきたい。でも、ええんか?もう、温泉卵取っちゃったぞ?

これが、かの有名な朝食バイキングのジレンマである。どちらも取っていいはずなのに、なぜか躊躇してしまう。


ここは一度クロワッサンは諦めよう。そもそもシェフにオムレツを頼むときに、おぼんに温泉卵がのっていたら失礼だ。

そんなことを考え、クロワッサンとオムレツを諦め、和食に合うおかずを他に探していると。


巨人がいた。


そこには、僕と同じように料理を取っている巨人がいた。



それにしても、デカイ。顔つきとあやつる言語からしておそらく日本人だ。同じ日本人のはずなのに、デカイ。


彼は今、フォーの麺を茹でている。
ここのバイキングでは、ベトナムの国民食フォーをいただくことができるのだ。自分で麺を茹で、好きな具材をとり、用意された出汁をかけることで、フォーがいただける。

いや、今フォーの話はどうでもいい。それよりも、フォーを茹でている彼だ。

180cmある私でも見上げるほどの身長と、そのガタイの良さ。ちなみに、皆さんはお気づきだろうか?先ほどから上記の文章の「捨てがたい」の「がたい」の部分がカタカナになっていたことに。がたいをガタイにすることで、案にこの後の展開をほのめかしていたというわけだ。

は?


彼に近寄る人かげ。

でかい!


フォーを茹で終わった彼と挨拶を交わす別の巨人。彼は彼よりでかい。

もはや、デカさに圧倒されすぎて、どちらの彼がどちらの彼かわからなくなってきた。さっきから何を言ってるんだろう僕は。


動揺が隠せない。とりあえず、平静を装い席に戻ったが、デカさに圧倒され、飲み物を取るのを忘れていたことに気づく。

オレンジジュースにしよう。
再び席を立ち、ドリンクコーナーに向かうと、またひとり、別のデカい人がいた。


異世界に迷い込んでしまったのだろうか?ホテルという非日常空間にヨネスケみたいなノリで足を踏み入れてしまったせいで、時空が歪み、巨人の住まう世界に来てしまったのだろうか?

そう思って周囲を見渡すと、確かにちゃんといる。小さな赤ちゃんを連れた身長155cmくらいのお母さんが。

しかし、まだ油断はできない。女性は一般的なサイズで、男性が巨人という異世界の可能性も否定できない。
赤ちゃんは今から育つのだ。ゴリラの赤ちゃんだって、産まれた時は1.8キロほどじゃないか。(Google調べ)

そう思い、さらに周囲を見渡すと先ほどのホテルマンがいた。いや、間違いない。あのホテルマンは、僕の知っている成人男性の平均的なサイズだ。いや、平均サイズより少し細い気がするが、それは彼の日々の節制の賜物だろう。


話がそれすぎている。どうやら、彼らは異空間から来たわけでなく、この世において、食事とトレーニングによって身体をできるだけ大きくしたラガーマンのようだ。よく見ると、某有名ラグビーチームのジャージやスゥエットで鋼の肉体が包まれている。

しかもだ。よく見ると、彼のおぼんにはクロワッサンとフォーがのってるじゃないか。

ベトナムとフランス。そんな異なる国の食べ物二つを同時にのせた彼のおぼんの上。
そこでは異世界が喧嘩するどころか、小気味よく調和し、それぞれがお互いの良さを引き立てあっているように見えた。まさに平和の象徴。国際平和は、彼のおぼんの上から始まるのかもしれない。


そこで、ふと思った。あぁ、俺はなんてちっぽけなんだ。

日頃から、自分は身体が大きい方だと思っていた。水を飲むとき、コップを持つと、コップが小さく見えると言われたことがある。
仕事先で腕に腕章を巻く機会があったとき、腕章のサイズが合わずに一人だけ腕章をひじに巻いていたこともあった。

そんなことで、自分は大きいだなんて勘違いしていた。


おそらく彼らは日常的にエスプレッソをビールジョッキで飲み、腕章は指に巻きつける生活だろう。


情けない。
先ほどクロワッサンを一度諦めたことを恥じた。シェフは笑顔でオムレツを焼いてくれるはずだ。


そして、私はその足でクロワッサンを取りに行き、シェフにオムレツを頼みにいった。先ほどとった和食達はテーブルに置いてあるので、結果的には、クロワッサン片手にオムレツを頼みに来た男になった。

それでもいい。大事なのは身体の大きさじゃない。器の大きさだ。

あぁいい気分だ。既成概念から解放された。普通は、グランドキャニオンとかを見た際に起きるやつが、ホテルの朝ごはんバイキングで起きた。

白ごはんとクロワッサンを同じタイミングで食し、朝からお腹いっぱいになり、好きなものを好きなだけ食べた満足感に満たされて、僕はふと外を見た。


外では朝ごはんを終えたラガーマンたちがその大きい身を寄せ合って、コーヒー片手に談笑していた。いい1日の始まりだ。

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