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プロジェクト・マネジメントから見た監査の問題【監査ガチ勢向け】

個々の監査業務は、一年単位の大仕事。プロジェクト・マネジメント(プロマネ)には苦労します。誰かが助けに来てくれたらいいのに…


てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

Twitter上で「日本一の監査チーム」の要件を聞いたところ、プロマネを挙げた方が多数おられました。

皆さまが所属するチームでは、プロマネはうまくいっていますか?
プロマネに割く時間がなかったり、苦手意識があったりという理由で、課題を感じられているチームが多いように思います。

監査にプロマネが必要な理由

今さらですが、なぜ監査にプロマネが必要か、さくっと振り返っておきましょう。というよりも、逆にプロマネがまずいとどうなるか、を考える方が簡単です。

  • 必要な手続をタイムリーに完了できなくなり、期限までに監査が終わらない

  • 期限前の短期間に業務が集中することで

    • 手続や文書化に十分な時間がかけられない

    • 監査判断を誤るおそれがある

    • クライアントにも短納期の対応を強いることになる

さきほどのTwitterでの問いかけに対し、「プロマネのプロを入れたい」「監査を知らなくていい、むしろ監査に染まっていない人にプロマネをやってほしい」といったご意見がありました。

実は私の監査チームで、プロにプロマネをお願いしたことが何回かあります。
その結果感じたのは、誰がプロマネを担当するかかかわらず、プロマネをしてもらう監査チームの方に、相当の覚悟がないとうまくいかないということでした。
以下、その理由を3点に分けて説明していきます。

  • 監査という業務にかかわる難しさ

  • 監査チームの問題点

  • 監査法人の問題点

監査という業務にかかわる難しさ

プロマネをする上で、どんな業務もそれぞれの難しさはあると思います。
監査については、次の点で難しいと感じます。

監査手続は何をもってタスク完了とするか

プロマネには多数の要素がありますが、次の3点が幹となります。
①タスクを網羅的に把握する
②各タスクに期日を設定し、リソースを張る
③定期的に各タスクの進捗を把握し、問題点を解決する

まず、タスクを設定する前に、何をもって一つのタスクとするかが問題です。
期末の実証手続で言うと、勘定科目ごとでは大きすぎます。勘定科目の担当者に進捗を聞いて、「80%です」という回答がいかにあてにならないか、皆が経験するところです。
かと言って、サンプル1件ごとでは小さすぎます。
そこで、一つひとつの「調書」をタスクとし、調書が終われば完了、とデジタルに判断できるようにしていました。

次に調書の完了をどのように定義するかが問題です。審査を受ける調書であれば、次のような完了のポイントがあります。

  • 調書作成者のサインした日

  • 査閲者がレビューした日

  • 査閲者コメントへの対応を終えた日

  • 査閲者コメントへの対応を査閲者が確認完了した日

  • 審査した日

  • 審査コメントへの対応を終えた日

  • 審査コメントへの対応を審査担当者が確認完了した日

「調書作成者のサイン日」をタスク完了とすると、進捗率は100%なのに、レビューが終わっていなかったり、コメント対応が遅れている調書がいっぱいある、ということが起こりえます。
「審査コメントの確認完了日」とすると、現場の作業はほとんど終わっているのに進捗率がなかなか上がらなくなります。

どの一点を採ってもメリット、デメリットがあるため、複数のポイントを設定して管理する必要があると思われます。
調書の数が多いこともあり、プロマネが複雑になります。

期限の設定が難しい

監査意見表明前の審査時にそろえることで問題ない調書がたくさんあります。期中の特定の時期に審査を行う場合も、審査で必要な調書の多くは審査直前が最終期限になります。
ところが、それらの調書の期限を審査直前としてしまうと、その時期の作業量が膨大となります。

そこで平準化するように期限をばらけさせるのですが、最終的な期限でないことが分かっているため、どうしても少々遅れても大丈夫という意識になってしまいます。結局作業は遅れに遅れ、審査直前に大忙し、という状況におちいりがちです。

監査チームの問題点

しっかりしたプロマネをやろうとすると、監査チームの問題も浮き彫りになります。

年間のタスクの棚卸ができない

一年間の標準的な監査の業務のリストを用意している監査法人は多いと思います。ここでいう「業務」はタスクにするには大きすぎますので、調書単位などに区分する必要があります。また、リストされていない業務もたくさんあります。

期初にできるだけ網羅的にタスクを洗い出そうとしますが、どうしても抜けがあります。また、クライアントの状況変化や、審査からの指摘、法人の方針の変更(または明確化)によりどんどんタスクが増えることが通常です。

新しいタスクに気がついた都度プロマネに反映させることは手間がかかるため、ついついプロマネの枠外で作業してしまいます。

規律が保てない

プロマネを成功させるためには、監査チームの「規律」が不可欠です。具体的には、

  • 各タスクの期限を守る

  • 期限が守れないときには、早くアラートを出す

  • 新しいタスクなど、タスクに変更があるときは早く伝えてプロマネに反映する

プロのプロマネ担当がいると、各チームメンバーは頻繁に進捗確認を受けることになります。こんな会話があちこちで繰り広げられます。

プロマネ担当「このタスクは遅れていますが、どうリカバリーする予定ですか? またリカバリーに必要なことがあったら言ってください」
チームメンバー「自分ががんばるしかないので、がんばります」
プロマネ担当「先週もそう言ってたじゃないですか。今週はどうがんばるんですか」
チームメンバー「先週は、クライアントから急に質問が来て対応していたんです」
プロマネ担当「今週は突発的なことは起こらないんですね?」
チームメンバー「…(この時間に調書作らせてくれよ)」

プロマネ担当の役割は、プロジェクトを無事ゴールに導くことです。進捗が悪いとあせります。監査を知らない人であれば、自分が手伝うことはできないので、嫌がられながらもひたすら督促して回ることになります。

定期的に進捗会議があると、遅れているタスクを抱えているメンバーにとってはとてもつらい時間になります。「詰められるだけで意味がない」と感じるとほかの業務を優先して欠席するメンバーが増えます。
全員が忙しく誰もさぼっている人はいないのに、むしろそれゆえにプロマネが崩壊してしまう。

忙しくても決めたことは守る。この規律が維持できないと、プロマネは誰がやっても失敗します

監査法人の問題点

プロマネでは、タスクを洗い出し、期限を決め、リソースを張った時点で、年間の必要なリソースが決まります。
ところが、リソースを満額要求しても、人が足りないのが現実です。

本来、リソースを確保することは、プロマネの重要な役割です。ところが、法人全体にリソースが不足している以上、各メンバーががんばる、という以外に手の打ちようがありません。

プロマネ担当がこのような状況を知れば知るほど、進捗の遅いメンバーをプッシュしづらくなります。
逆にこの状況を知らないと、上記の例のように激詰めして監査チームメンバーとの間に感情的な対立を生んでしまいます。

おわりに

なんだか救いのない終わり方になって申し訳ありません。
優秀なプロマネ担当が専属でいても、問題は解決しないことはご理解いただけたでしょうか。

業界横断的なリソース不足の下、プロマネは一層重要です。
監査チームメンバー全員が忙しい中ですが、規律を守り、プロマネを成功させ、どうか監査を成功させてください。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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