鳩が来た時

‪飼育が禁止されてる野生動物のツイートをみて思い出したこと。僕の育った家は都内にも関わらず広く庭は日本庭園になっていて池や植物など自然が豊富で野生の動物がいっぱい寄り付いてた。池の鯉以外は飼う訳じゃなく勝手に来たりどっかいったりしてただけなんだけど、偶に動物が家の中まで入ってくることもあった。‬

‪うちは人の出入りの多い家だったし、夏場は玄関の扉も開けてることが多かった。たまたま僕が玄関に来たとき、鳩が空からバサバサバサーと玄関内に飛来して板張りの床にスタッと降り立った。僕は「何故……?」と思ったけど、その鳩は臆せず玄関内を歩き回り、玄関の扉とは反対側の一面ガラス張りの庭全体が見渡せる扉に近づくと、庭の様子をしげしげと眺めながら、「クルックー」と鳴いた。‬

‪ここで僕は「どうしたらいいの??」と混乱した。その時、母も祖父も入院していて、残ってる祖母は常識が無く相談できるような人物じゃないし、妹じゃ頼りない。この鳩のことは母に相談しなければ。僕はその件に関して自分で責任を取る覚悟なんか無かったのでとにかく誰かにこの状況を判断してもらいたい気持ちだった。それと同時に「こんな変わった状況のことを誰かに知っておいて欲しい」とも思った。‬

‪するとたまたま母の友人がうちにやってきて(頻繁に人が来る家だった)、これは見せなければと思った僕が「鳩です」と言うとその人は驚いて「まあ!」と言った。近づいて眺め、「でもこれ人が連れてきちゃいけないのよ」と言うので「いえ、玄関の扉を開けてたら勝手に飛んで入って来たんです。そして我が物顔で家の中を歩いてるんです」と説明した。少ししたら妹が帰ってきたので僕は「鳩!」と呼んだら来て写真を撮った。「これお母さんに知らせたいね」と僕が言うと妹は「うん、でも入院してるから見せられないね」と寂しく話した。‬

‪ここで僕は、犯罪の告白をします。その夜、鳩が家の中にいる状態で、無用心だから玄関の鍵を締めて寝てしまったのです。これは今考えると良くないことでした。鳩を傷つけないようにしなきゃいけないけど、その上で、家から追い出さなければならなかった。当時十代とはいえ良くない事でした。鳩よ、ごめん。‬

‪翌朝、輝く太陽の光を浴びながら、扉を開けて、鳩に「さあ!」と言うと、鳩はキョトンとしていて、特に出ていこうともしなかった。ここで僕はさらなる犯罪を告白します。野生動物に触れることはいけないことなのに、鳩を手で抱えて玄関の外に出してしまったのです。よくないことでした。鳩よ、ごめん。‬

‪鳩は玄関扉と門扉の間の屋外の空間で、しばし歩いてた。妹は学校へ行き、僕は一人、鳩を眺めて数分。前触れもなく鳩はバサバサバサーと空に舞い上がり、そのまま視界の届かない彼方まで飛んでいってしまった。あっけないものだな、そう感じながら僕は自立した子供を見送ったような気持ちになりながら(注・当時十代です)家の中にへと思った。‬

‪昼過ぎ。入院してる母のところへ行って鳩来訪事件について詳細に説明。「首を、首をね、くるっ、くるっとね、回してね、うちの中をね、観察したんだよ! クルッ、クルックー、って言いながら!」と言うと母は「えーなにそれー、普通の鳩じゃないー、そんなのがうちに入ったの? 怖い」などと言っていた。僕は一日中、ゴジラが日本に上陸した、くらいの実感を持って説明し続けた。‬

‪その時の鳩の写真がどこかにあるはずなのだけど、その後その家は人手に渡り取り壊され家族も妹以外はみんな死んで荷物を引き取った僕も大量のダンボールのどこにその写真が混ざり込んでるのか判らない。庭も、植物も、そこに来ていた動物たちも、いなくなって、何もかも無くなって、無に帰して、当時僕と関わりのあった人たちも誰もいなくなって、それでもまだ僕が生きてることは、不思議な気がする。ただ、今でも時折、街中で鳩を見かけた時には、あの時の鳩のことを思い出すことも、あるんだよ。‬









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