見出し画像

帰り道の歌。

「がんばりたいときに、よく聞く歌は何ですか。」

わたしの場合は、BONNIE PINKの「Happy Ending」。高校三年生の一年間は、この曲をずっと聴いていた。

ねぇ 信じてごらん Happy Ending
君が手を伸ばしたその先にあるよ

語り聞かせるようなサビで始まる歌いだし。伸び悩んだ成績のグラフに胸がギュッとしまった日も、このフレーズを聞くとあと少しだけ頑張ってみようと思うことができた。

焚き付けないと消え入りそうになるガッツを、どうにか燃やしてくれる曲を聞くこともあったけど、やってもやっても芽が出そうにない自分にへこたれそうになったときは、一緒に歩いてくれるような優しい曲のほうが必要だった。記憶を呼び戻してみると、この曲を聞いていたのはいつも何かの帰り道だ。水道橋の近くにある塾に通っていたわたしは、自習を終えて神保町の駅まで向かう帰り道で、夜空を見上げながらこの曲をよく口ずさんだ。

浮き沈んで海底で見た景色そこには
美しい現実がまだあったまだあった
まだ間に合うんだ

神保町の、大学がたくさんあったあの通りを思い出す。音楽を聞いていると、周りの音はほとんど聞こえない。特に冬場は、まぶしいくらい明るい居酒屋のライトに照らされた夜空にはオリオン座だけがぽっかりと浮かんで見えた。

なんでだかわからないけれど、ここは海底なのかもしれないと思った。歌しか聴こえない、深い深い水の底。わたしのこの先は一体どうなるんだろう、そんな不安を抱えて歩いていた自分には、あのときのオリオン座がただただ大きく、形が変わらないままそこにあることが救いだった。

また、オリオン座の季節がやってきた。わたしはこの曲を聴きながら夜道を歩く。つかんだと思った未来の先には、また新たな道があった。幸せで、不安だ。まだ間に合うかな、大丈夫かな。

そうやって思いながら、今日もわたしは最初のフレーズを口にしている。

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,744件

サポートしていただけるとうれしいです。サポートは読みものか、おいしいものに使わせていただきます。