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冬を起こす

今年は島の中で稲刈りがゆっくりと進んだ気がする。例年であれば、稲穂たっぷりの風景が一面に広がっていた翌週には、すっかり稲刈りが終わって、あたかも稲がなかったかのような風景に様変わりしていたりする。

稲刈りシーズンに2度接近した台風の影響もあって、稲刈りをするタイミングを逃したから、全体的にゆっくり進んだのかもしれない。農家の方々は大変だっただろうけど、景色を楽しむという意味では、ゆっくり長く秋を楽しむことができた。

とはいいつつ、秋は早く過ぎ行くもので、冬への準備は着々と進む。
先日は、原木椎茸の「ほだ木起こし」に行ってきた。こちらは、椎茸の菌打ちをしてある原木たちを、ただハンマーで叩くというもの。原木の中で眠っている菌を文字通り起こすのだ。

生徒それぞれの叩き方を見ていると、色々あって面白い。原木を傷つけるのが怖くて恐る恐る叩く人がいたり、木琴を鳴らすかのように軽やかに連続して打ち込んでいく人。色んな音が冷たくなってきた空気の中で響く。

僕個人としては、このハンマーで木を打ち鳴らす音が、冬の始まりを鳴らす鐘のような気持ちでいる。
自然界のことはどうしようにもできないし、打ち込まれた菌がどのように原木の中で広がっていくかは目には見えない。でも、目に見えないものに対して、ひょっとしたら自ら打ち鳴らすハンマーが、何か実りをもたらすのかもしれないという期待とともに、冬の椎茸収穫シーズンに向けて大きく育ってくれと願いをかけられるので、とても気に入っている。

ほだ木起こしから、1週間ほど経って原木の様子を見に行く。ポコポコと椎茸が出てきているそうだ。
椎茸農家の福井さんに「明日の朝一で見に行っていいですか?」と電話で聞くと、「いつも、その時間は椎茸のことを構っているから、いつでも大丈夫」と返事が来る。福井さんが椎茸を毎朝構っている姿も、日頃は見られない姿で、想像するしかないんだなと思った。

(文:受入コーディネーター 恒光)