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卒業その後 武田真緒さん(2021年度 四季を通して学ぶ1年間コース卒業生)

まず最初に、島食の寺子屋に入った理由を教えて下さい。

もともとは保育士をしていたんですけど、保育士をする前から食には興味があって、食に関わる仕事をいつかはしたいと思っていました。
ただ、どういう風に道を変えていいのかわからなくて。
料理の道を選ぶっていうことは、一般的な仕事から一気に逸れるようなことになるので、しっかりと基礎を学ぶところからだと料理の道に進みやすいなと思いました。
食のことをやるのであれば、和食が良いと思っていたので、和食の基礎を学ぶ学校である島食の寺子屋は、すごく自分のやりたいことに合っていましたね。

4月はひたすら包丁の練習

島食の寺子屋での1年を選ぶことに、それなりの決断が必要でしたか?

今振り返ってみると、あまり迷いはなかった気がしていて。他の料理学校と比較しようとも思わなかったし、そもそもそっちには興味がなかったし。

お金に関しては、今までの仕事で貯めていたものがあったので、授業料と生活費と計算はして、自分の力でやっていけなくはないなとも思っていました。仕事を辞める時の失業手当もありますし、なんとかなるかなと思いながら。
でも、入塾を決めたのは見学に行ってみて、ここだったら行ってみたいと思えたから。それがなんで?って聞かれたら、言葉に表すのは難しいんですけど。畑作業とかに興味があった訳でもなかったので、今思えばすごい不思議な選択でしたね。

最初は興味のなかった農作業

来島見学で当時の現役生たちの様子を見ることもありました。どんな風に見えましたか?

見学に行った頃は、生徒の皆さんはちょうど進路を考えている時期(11月頃)だったみたいで。でも、どうするか具体的には何も決まっていない様子でした。

来島見学者には現役生が夕食用にお弁当を渡す(2020年度1年間コースの生徒達)

「みんな、こうなりたいとか決めてから入塾しているわけじゃないんだ。」って感じたのを覚えています。こうなりたいって明確に決まってなくてもいいんだなって、良い意味で捉えられました。自分も、入塾する時には、島食の寺子屋を卒業したら、料理店で働くかどうかすら決めていなかったので、ポジティブに感じとりました。

もし1年やってみて、料理を仕事にするのは違うなって思ったら、それはそれで1つの経験だし。島食の寺子屋で学ぶ1年間のことで、自分が損することは絶対にないと思ったんですよ、この先。絶対に何かが身に付くわけじゃないですか、料理に関することで。料理をしない人生ってないでしょうし、料理を仕事にしなかったとしても、絶対に自分の為にはなるって思えたから、入塾に至ったのもあります。

卒業後はどこで働いていますか?

実家のある岡山の、「Bricole」というところで働いています。
見つけた経緯は本当に偶然です。SNSとかで、岡山のお店を色々と探しているなかで、料理の写真であったりお店の雰囲気にすごく魅かれるものがあって。こういうのを学びたいな、やってみたいなって。まずはご飯を食べに行ってみようと思って。

姉妹店「雲」の外観

そのお店の下にギャラリーがあって、そこにたまたま私の友達が働いていて、その友達にお店のことを聞いたら、「すごい良いところだし、ちょうど求人出しているよ」って言われて、まずは食べに行くことにしました。他のお店も行ったんですけど、「良いな~」くらいで。実際にBricoleの矢長さんともお話して、お店の雰囲気も料理も含めて、ここで働いてみたいなって気持ちになりました。Bricoleとしても人材の欲しいタイミングでもあったから、とんとん拍子に就職に向けて話が進んでいきました

島食の寺子屋を卒業して、実際に働き始めて半年ほどが経ちました。どのようなことから任されていますか?

お店に入って本当に間もない頃は野菜を切ったり茹でたり、あとは片付け洗い物。配膳やドリンクをつくることもやりました。
その後は、簡単な調味料を合わせておいたり。炊飯器のご飯を炊いたり、胡麻豆腐と葛餅の作り方も覚えました。
姉妹店の「雲」がオープンして、2店舗を少人数で回しているので、入ったばかりの私たちもやるしかないって状況もあって、早い段階からお料理も盛り付けも幅広く色んなことをやらせてもらえていると思います。

「雲」で 料理の説明

魚も最初は小さい魚から触らせてもらって。
寺子屋での経験があるので、今は南蛮漬け用の大きめの魚も任せてもらえています。
焼き魚や天麩羅、お造里の盛付も時々させてもらうんですけど、お造里は特に難しくて料理長が手直ししてくださってます。ここ最近では、鮑やバイ貝の調理も覚えました。

岡山名物の鰆を捌く

将来の夢はどのようなものですか?

ゆくゆくは、自分でお店をやってみたいです。実際にお店で働いてみて、毎日、朝から晩まで厨房に居続けるような働き方をしない形がいいなと。
とか言いつつ、休みの日も結局料理に関わることに時間を割いちゃっている今の自分がいて。食材を見に行ったりとか、器を見に行ったりとか。
自分がお店をするんだったら、朝と昼にするとか、毎日の営業にしないとか。自分ひとりと、あとお手伝いさんもいながら回せる位のお店をできたらなと思っています。あとは、お弁当もいいなと思ったり、子供向けの料理教室もできたらと思っているんですよ。

島の小学生が見学に来た時の様子

今働いているお店での経験は、将来の夢に向かってどう活かせそうですか?

美味しい野菜の選び方や、味付けの仕方を特に学べているように感じています。「雲」は季節を感じられるように、お椀を大事にしていて。薄葛仕立てだったり、すまし椀だったり色々なんですけど。自分でお店をする時はお椀は出したいと思っているので、それも活かせるなと思っています。

あと、炊き込みご飯のレパートリーがすごく多くて。それが私にとっては引き出しを増やしていくという意味で、とても嬉しくて。おにぎり企画をやっていたこともあって、まだまだ勉強したいです!!(笑)

おにぎり企画をきっかけにお米に深く興味を持った

島食の寺子屋を卒業して、お店で働き始めて約半年。島食の寺子屋での1年間を振り返ってみて感じることはありますか?

やっぱり、あれだけ魚がすぐ近くにあって、漁師さんもすぐ近くにいて。
本当にすごく良い環境だなって(笑)

定置網漁の乗船体験

飲食店で働くだけでは学べないことは沢山ありました。先生が魚を捌くところを、まじまじと見れることはないでしょうし、どうやって捌いたらいいかなんて丁寧に教えてもらえることなんてお店じゃないでしょうし。私のお店はすごく恵まれている方だと思っていて、「こういう風にした方がいいんじゃない?」って言ってもらえたり。それでも、あんなに色んな種類の魚を捌いたり、人が捌いているのを見れたのは凄かった。

あと、魚の色んな状態を見ることも、島食の寺子屋だからこそ出来たことかな。仕入れ先に行く機会も少ないので、近くのスーパーとかだと見れる魚が限られてて。魚を見てこれいいなとか、これあんま良くなさそうだなとか、島食の寺子屋での1年でだいぶ見れました。

もうひとつは、料理の仕方です。島食の寺子屋に入るまでは、「これを作りたい」から「これを買う」だったけど、今は「これがある」から「何を作るか」って考えるようになりました。

1年の最後に生産者さんに渡す卒業弁当 生徒自らお品書きを考える

「島食の寺子屋で学ぶ」と「お店で働く」というのは、学びの性質が違うと思います。お店で働きながらも、島食の寺子屋で得た、「この感覚だけは忘れたくない」ってのはありますか?

生産者さんに目を向けるようになったのは、島食の寺子屋がきっかけ。
どれだけ手をかけて育てられているかを、実際に見たり、実際に一緒に手を動かしてみたりして。

梅の土用干し

そこに目を向けずに、料理をしていくのは違うなって感じました。料理は食材があって初めて料理ができるわけで。そして、食材があるのは食材を作ってくれている人がいるわけで。そういった方々に目を向けずに料理をすることは、違うなと感じるようになりました。

原木椎茸のお手伝い

今まで、スーパーにある大量生産の野菜しか見ていなかったから、生産者であったり、その食材の生産過程がどうなんだろうかとか、別に深く考えていなかったんです。スーパーに並んでいるのが当たり前で、ちょっと高いなとか安いなとかくらいしか気にしていなかった。

同世代で働いている方との違いはありますか?

お店の同期は、細川亜衣さんが好きで、細川さんの料理教室に行ったりしていたみたいです。和食以外のお料理の事をよく知っているイメージ。

やっぱり、まずは魚。魚いっぱい触っておいて良かったって、つくづく思うんですよ。

授業以外にお裾分けで魚を沢山もらうことも

刻むのもそうです。同期が刻んだのは太かったりまばらだったり。私もまだまだですけど、島食の寺子屋でたくさん練習した分、少しは包丁に慣れてるのかなと。それで、代わりに私が任されることもあって、多少は現場で任される範囲が広がっているかもしれないですね。

離島キッチン海士での実践授業は今に活かせていますか?

速く手を動かさないといけないけど、同時に丁寧にやらないといけないよって、離島キッチン海士の実践でも島食の寺子屋校舎でも、ずっと言われ続けていたことそのものを今も感じています。実際の現場で働く為の予行演習になりましたね。

離島キッチン海士での実践

お店だと、仕込みに追われるときは本当に追われるんですよ。毎日のように営業があるので、営業が始まるまでに仕込みは絶対に終わらせないといけない。
一方で離島キッチン海士の場合、営業日の前日と前々日の仕込みについては、時間かかっても「ここまでは終わらせておこう」という環境だった。
仕込みが遅れたりすると、先生からのピリピリの圧はありましたけど、その緊張感があっての現場なんだなって。現場の感じを、お店に入る前に味わえたので、離島キッチン海士の存在って大きかった。

最後に。もし、島食の寺子屋に戻れる機会があれば、何を学び直したいですか?

もう一度、春から帰れるなら、その時にとれる山菜とか食材とか、もっとちゃんと食材と向き合いたいです。
そして、自分でお品書きを考えて料理をゆっくり作ってみたいですね。
お店で賄いを作らせてもらうときは、色々考えつつも、いつも急いで作ってしまっているので。自分なりに時間を使って料理をしたいです!

(2022年10月11日「雲」訪問 11月17日オンラインにてインタビュー収録)