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7月「広がる」

 遅れてやってきた梅雨と、梅雨明けと同時に真夏が始まった7月。
 
 いつもの町並みも、海も、植物も、鮮やかさを増した。夏の空は青く、この島の景色をさらに美しく見せてくれる。

〈7月に出会った島の植物〉

【仕上げる形、届け先が広がる】

 今月は、弁当、オードブル、刺身盛りなど、これまでに経験したことのない形で仕上げることが多かった。これらは、祭典や法事など、地元の方に食べていただく機会となった。

 離島キッチンでも、県外からのツアーのお客様だけでなく、イベントの打ち上げや同窓会で地元の方に利用していただくことが増えた。

 この島の食材だけを使って料理をしているので、地元の方にとってはよく見知った食材を食べることになる。
 
 「この食べ方もおいしいね。」
 「これはあんまり食べたことなかったな、うまいわ。」

 家庭とは違った形で料理されていることに興味をもったり、地元食材のおいしさを再確認していたりして、離島キッチンではお客様のうれしい反応をたくさん見ることができた。

 弁当作りは100食を超える日が2回あった。それだけたくさんの人に届けられたということ。

 この島の自然や人にお世話になって食材をいただき、料理をさせてもらっているので、地域の方に喜んでもらえたことは、お返しが少しできたような気がして自分自身の喜びにもなった。

 次は自分たちでお品書きを考え、仕入れから行う弁当作りが始まる。旬の食材いっぱいの“島の今”が伝わる料理を作りたい。

【視野が広がる】

〈港の先へ〉

 寺子屋で扱う魚のほぼ全てを賄う、崎地区の「大敷」。大型の定置網漁を意味する「大敷網漁」から、みんなに「大敷」と呼ばれている。その漁に同行させていただいた。

 2隻の船で網の引き上げをする。1隻は網を巻き上げ、もう1隻は網を持ち上げる。2隻で挟み込んで網の中の魚を集めたら、船に掬い入れる。

 網を巻き上げるのは大変な作業。漁師さんたちは、横並びになって巻き上げる機械の前に立つ。広い網が傾かないようにスピードを合わせて巻いていく。潮の速かったこの日は、トラブルも多く、揺れる船の上を走り回って作業にあたることも。

 群れをなすアジやシマメ。青白く長いヒレを伸ばして泳ぐトビウオは空を飛ぶ鳥のよう。黄色く光るシイラは一匹で動いていても一際目立つ。集まった魚たちが泳ぐ姿は美しく圧巻だった。
 
 2か所の網上げで、1か所ではシマメが大漁。もう1か所はアジを中心に魚がたくさん入っていた。同じ日でも、網によって獲れる種類も量も違う。

 自然相手のことでそれは当たり前のことだけれど、漁師さんたちは行き当たりばったりではなく、狙いを定めていることを知った。

 日々分析をして、鰤などの青物が通りやすいところに仕掛けを設置したり、網を沖に伸ばす試みをしたりしている。

 そのような取り組みは実を結び、漁獲量は伸びて既に今年の目標を超えているそうだ。
 
 この海の豊かさを享受できるのは、大敷の漁師さんたちの努力のおかげであることを改めて実感した。

〈料理を仕事にするということ〉

 京都の宇治で抹茶料理や京料理を提供する「辰巳屋」さんの料理人の方々が寺子屋に研修に来られた。

 一緒に海士町の生産者さんを回ったり、自然を満喫したり、たくさんお話ししたりして、密度の濃い3日間を過ごした。

 辰巳屋さんが賄いを作ってくれたとき、私たちの仕込みを手伝ってくれたとき、スタッフのみなさんの動きに釘付けになった。
 
 短い打ち合わせで、自分の仕事を次々と進めていく。初めての場所のはずなのに、どう見ても私たちより動きがいい。

 常々、先生から動きの遅さを指摘されている。自分ではのんびりやっているつもりはなかったけれど、辰巳屋さんの動きを見て、全てのペースの違いを痛感した。歩く速度、手の動き、伝達。

 必要な道具は予め調理台にセットし、作業が終わるとき洗い物も済ませる。今の作業が終わる少し前に次にすることと段取りを考える。

 辰巳屋さんの動きから得たことは、次の日から実践している。体も頭もスピードアップ。普段より断然疲れるけれど、同じ時間での作業量は以前より増えていると思う。この日圧倒された動きを、普段からできる自分になりたい。

 時間は有限。どう使うかは自分次第。
 「大切な1年。」その意識がぐっと上がった。1分、1秒の積み重ねが、そこに繋がるのだ。

(文:島食の寺子屋生徒 小松)